視点 オピニオン21
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日本ラグビーフットボール協会専務理事
真下 昇さん
(横浜市港北区大豆戸町)

【略歴】高崎高、東京教育大卒。学生、社会人ラグビー選手として活躍。元日本協会レフェリー委員長。国際レフェリーを国内最高齢の54歳まで務めた。クボタ・マーケティング推進部理事。

ラグビーのけが



◎緊張感の欠如が主因

 夏に鍛えるラグビーとうたわれ、全国の各ラグビーチームが今年も秋からのシーズンに備え、この夏も涼を求めて各地に合宿を張り、チーム力の調整に腐心していた。各チームのコーチたちは、ベストコンディションでシーズンをどう乗り切るか、心配の種は尽きない。
 
 合宿はチームの戦術面を確認していく場でもあるが、またシーズン中に選手がけがによって戦列離脱することをどう避けるかについての対策のほうも大きな問題である。選手層が薄いチームにとっては、中心選手がけがをすればチーム力は大きくダウンする。また、複数の選手が負傷すればチーム編成に困り、場合によっては最悪の試合放棄にもなりかねない。だからと言って、怖がっていては前には進まない。スポーツにけがはつきものであるが、特にラグビーは激しい競技故に強靱(きょうじん)な身体が要求される。日ごろの練習にも体力養成の配慮が十分されているが、それだけでは不十分で、体力強化の面では特別なメニューが必要とされている。

 けがの主たる起因は他の競技では見られないコンタクト(タックル)プレーであろう。その衝撃に耐える強い肉体が求められる。これに耐える筋力というのは即製された筋力ではなく、長年養われてきた柔軟性の高い筋力である。瞬発力にも大きな差があるといわれている。

 南太平洋の島々の国でもラグビーは盛んであるが、選手は子供のころよりみんな大人と一緒に農業や漁業といった作業に従事し、日常の生活習慣の中で肉体が鍛えられ成長している。彼らを見るとわかることは、筋肉が非常に柔軟性に富んでいて、コンタクト時のパワーがわれわれ日本人とは格段の違いであることである。

 人間の成長期のピークは十八―十九歳といわれているが、現在そのころの自分を思うと、高崎高校のコンクリートにちかいような硬いグラウンドの上をよく走らされていた。観音山の階段を何度となく往復したり、クロスカントリーのごとく少林山近くまで山中を走ったことが思い浮かぶ。真夏の合宿では先輩たちに鍛えられ、ふらふらになりながらも一晩寝ればケロリとして、次の日の練習に参加していた。この年代は疲れを知らないと同時に、鍛えれば鍛えるほどしっかりと成長する年頃なのだと思う。

 振り返って見ると、長年にわたってレフリーを務めることができたのは、健康な身体を両親からもらったことに感謝するとともに、あのころ鍛えたことが幸いしているのだとつくづく思う。

 しかし、強靱な体力をもってしても練習、試合を問わず、競技をすれば身体的障害は起こる。それを予防する手段も昨今の医学は進歩してきている。だが、けがを回避するのに一番肝心なのは、選手自身が常に万全の態勢で緊張感を持って、いかにプレーに集中するかではないかと思う。けがの発生時の選手の心理的状況を聞いてみると、意外にもこれらの緊張感の欠如からの場合が多い。選手諸君が常に集中心を高め、チームがベストメンバーで試合に臨むことができ、大きな感動を呼ぶような最高の試合が、多くのファンの前で行われることを期待してやまない。

(上毛新聞 2002年9月2日掲載)