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医療法人ラホヤ会道又内科クリニック理事長 
道又 秀夫さん
(高崎市柴崎町)

【略歴】日本医科大卒。群馬大第一内科に入局後、伊勢崎市民病院、前橋赤十字病院などに勤務。98年1月、国立がんセンター出身の妻、かおるさんとともに開業。アレルギー科・呼吸器科専門医。

救急医療



◎地域で支える体制重要

 高崎市の小学生が東京女子医大での心臓手術で亡くなったことは、最近の報道により記憶に新しいことと思います。どうして群馬から東京まで治療に行くのでしょうか。それは群馬県内には、少なくとも高崎市内には心臓病手術で十分満足できる総合病院がない、と考えたからではないでしょうか。医療格差が大きいことはある程度知られていることではありますが、いままでは保険点数の上ではまったく同額でした。

 しかし、この四月の保険点数改正ではそれを保険点数、つまり価格に反映させています。具体的には、心臓手術の症例数により保険点数、つまり料金に差が付けられました。つまり、医療技術も経験症例数等により格差を付けたということです。いままでの保険点数は医者になって一年目の研修医と十年以上の経験がある各科の専門医でも点数、つまり料金はまったく同じで、むしろ余分な検査をする研修医のほうが、出来高払い制のもとでは価格が高くなりました。この手術数による料金の格差が適切であるかどうかは疑問が残るところですが、経験の差により料金に格差を与えたことは画期的なことであると考えられます。

 話を戻しますが、このような医療格差を感じて高崎から東京へと治療を受けに行くのだと思います。当院でも、築地の国立がんセンターに患者さんを紹介しています。それは、同じ理由からです。このように、一部の治療は東京に行くことは可能ですが、救急医療においては、東京まで送っていたのでは間に合いません。したがって、救急医療の充実は地域医療にとってきわめて重要です。病院による救急医療は二十四時間、継続的な救急体制が必要であります。効率の良い救急医療体制を考えると、診療所と救急病院との連携が重要であります。診療所は日常の診療で慢性疾患の管理を行っていくなかで重症患者、救急患者をしかるべき救急病院へ紹介し、病院はいつでもその患者を受け入れられる救急体制の整備をしておくことが必要です。

 病院が救急体制を整えるということは、救急を支える職員を二十四時間準備体制にしておくということで、それだけの人件費を払わなければならないということです。三交代制にすると、通常の三倍の費用がかかる計算になります。さらに、深夜勤務となるため、労働基準法では割り増し給与を払わなければなりません。現在のように、医療費の削減により医療機関、特に病院の経営が困難になるなか、国立病院の統廃合もあり、将来、地方の医療は都道府県に任される可能性が高くなっています。そのため、地域の医療は地域で支える体制が重要になり、県立病院、市立病院等の公立病院の整備が重要になっていくと考えられます。
 
 一般の病院では、これだけの経費をかけて救急体制を維持できる可能性は少ないと考えられます。公共事業を行って建設会社や職員が潤うためだけでなく、そのうちのいくらかは公共の福祉である医療、特に救急医療体制の確立のための病院建設、医療スタッフの確保に充ててほしいものです。

(上毛新聞 2002年9月12日掲載)