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赤城高原農業観光協会長 後藤 忠彦さん(昭和村糸井)

【略歴】利根農林高卒。元同村農業委員。昭和村りんご研究会の会長を務め、農業の新技術導入など研究。赤城高原農業観光協会の初代会長に就任。昭和村議。

無登録農薬



◎農家は環境に配慮を

 今、農や食にこれまでにないほど消費者の目が向けられています。これまでは、形が良くて安い物が求められてきました。しかし、BSE(牛海綿状脳症・狂牛病)問題に始まり、中国野菜の残留農薬問題、産地の虚偽表示、そして、最近発覚した無登録農薬の使用問題と、いろいろな問題が起きています。

 私たち農家は生きていくために農業をしています。しかし、現在ではコスト計算をし、環境に配慮して、作物を作っていかなければなりません。作ったら、はい終わり、という時代ではないのです。

 しかし、まだまだすべての農家が環境に配慮して農業をしているわけではありません。なぜなら、環境にも配慮し、食べる人にも優しい農産物を作ろうとすると、それには手間と費用がかかります。しかし、結果として、その農産物がコストの回収できるような商品にならなければ、経営が成り立っていきません。

 今回の無登録農薬使用問題は、そんな中で起きています。農家も農業のプロのはずです。無登録か登録されている物かは、すぐにわかるはずです。しかし、使ってしまった。それには行政と一般農家との意識のズレがあります。登録があるうちは、使用してもよいが、登録が切れたら、使用できない、と思われるでしょうが、実際は違います。危険だからといって、すぐに使用が禁じられるわけではないのです。実際には製造が行われなくなるだけのようです。

 しかし、危険な物は販売されていても使用しないという強い意志を農家は持つべきです。農家が環境を左右するという危機感を持たなければなりません。日本の水田は減反政策や手間がかかるために少なくなってきていますが、何万トンという水をため、少しずつ自然に放流しているダムだということを理解している人が何人いるでしょうか。また、野菜や果物がどのようにできているのか理解してくれている人が、どのくらいいるでしょうか。

 牛肉をトレーに載せて販売するようになりましたが、野菜や果物もそうなっていくのでしょうか。私はそうなってほしくありません。消費者が、「あそこのおじさんが作ったものだから、そんなのなくても大丈夫だよ」と言ってくれるような信頼関係をつくっていきたいと思います。それにはお互いの理解が必要です。農家は作るだけでなく、食べる人のことを考えて作り、消費者は作る人の気持ちを考えて食べる。こんな関係をつくっていければと思います。

 こんな時だからこそ、農村に目を向けてみてください。そして、遊びに来てください。子供たちのためにも。

(上毛新聞 2002年9月19日掲載)