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高崎経済大学地域政策学部教授 河辺 俊雄さん(東京都世田谷区野沢)

【略歴】京都市出身、京都大学理学部卒。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。同大医学部保健学科人類生態学教室助手。92年高崎経済大学助教授、97年から現職。

子どもの成長



◎生活環境が大きく左右

 子どもの成長は、子どもがどのような環境の中で育つのかによって大きく左右される。世界の国々の子どもの成長を比較すると、北ヨーロッパやアメリカ合衆国の子どもは大きく、インドや地中海地域あるいはアジア諸国の子どもの身長は低い。また、アフリカ人とアフリカ系アメリカ黒人を比べるとアフリカ人の方が身長が低い。このような成長の違いは、遺伝的要因と環境が重なって生じると考えられる。

 環境条件の違いから成長パターンをみると、高温の熱帯地域では成長の遅延が認められ、寒冷な地域の子どもたちは早熟である。ただし、熱帯の集団にみられる低身長と低体重の原因は、気温それ自体よりも、慢性的なタンパク質・エネルギー欠乏あるいは感染症や寄生虫症の負荷が大きいことを考慮する必要がある。また、高地に居住する子どもは、身長が低く体重が軽く成長が遅いが、これは高地における低温、乾燥、強い紫外線という自然環境条件だけでなく、この地域には農業生産力が低い社会が多いため、栄養ストレスが子どもの成長に影響していると考えられる。

 成長を左右する環境要因は、気候条件や高度に加え、栄養状態あるいはその規定要因である社会経済条件も重要である。栄養は、成長に関係する要因のなかでもっとも重要であり、成人の身長をはじめとする体形の違いも食生活と関連づけることができる。栄養素のなかでもタンパク質、とくに動物性タンパク質が重要である。タンパク質摂取量が少ない場合、成長速度の低下と思春期の遅れがみられ、成人に達しても低身長と低体重の場合が多い。

 調査を行ったパプアニューギニアの子どもの成長をみると、ニューギニア高地人のフリは成長が遅く、さんご礁の島のマヌスの子どもに比べると、男女ともすべての年齢において五―十五センチ低くなっている。これは、サツマイモに強く依存したフリの動物性タンパク質の摂取量が少なく、この低栄養によって、成長速度の低下や思春期の遅れがおこり、成人に達しても低い身長と軽い体重になるというように考えてよいだろう。

 これに対して豊かなさんご礁の海の幸に恵まれたマヌスの成長パターンは、動物性タンパク質の摂取量が十分で良好な栄養条件に加えて、伝統社会から短期間で近代化が進行している状態を示している。ただしマヌスは、すでに近代化を終えた日本や欧米の人びとにくらべて二―十センチ低い。

 ところで、欧米諸国や日本の子どもの身長や体重は時代とともに変化してきた。それらの平均値は、国や地域による多少のばらつきはあるものの、一九〇〇年以降の十年ごとに少年期で身長が一センチ、体重が〇・五キロ増加している。思春期の変化はさらに大きく、身長は二・五センチ、体重は二・五キロも増加している。その原因は、食物摂取パターンの変化にともなう栄養状態、とくに動物性タンパク質の摂取量の増加や人工乳の導入などによると考えられる。そして、生活様式の近代化にともなう保健医療サービスの向上、衛生的な環境整備、核家族化なども考慮しなければならない。すなわち、近代化にともなう生活環境の変化は子どもの成長に大きな影響を与えるのである。

(上毛新聞 2002年9月25日掲載)