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嬬恋村商工会長 戸部 一男さん(嬬恋村三原)

【略歴】前橋工卒。73年に嬬恋村で酒販食品卸会社「大野屋」を創業し、76年から社長就任。国税モニター、村商工協同組合専務理事、吾妻法人会理事などを歴任し、99年5月から現職。

商工会



◎地域振興の可能性追求

 三年前に商工会の会長に就任して最初の朝礼でした職員への話しかけは「商工会を、みんなにとって張り合いのある職場にするのが私の会長としての第一の目的です」というものでした。私の経営する小さな会社であれ、商工会のような機関であれ、職場はその仕事を通じて生きがいや、張り合いを手に入れる場所、流した汗が認められ努力が実ってこそ仕事と職場を愛することができるはずと考えるからです。正直に誠実に働く人が割を食わない職場づくりは経営の基本です。信頼に裏打ちされた責任感の強い有能な人材が数多くいてこそ職場は容易にその目的に近づくことができます。

 商工会がより活発に活動して地域に貢献できるかどうかも職員の使命感と責任達成能力によります。わが国は今、いつ果てるともしれない強い閉塞(へいそく)感の中にあります。政府の発表では景気は底を打ったとか、回復基調にあるとか言っていますが、金融不安は解消されたわけではないし、零細企業の経営環境は日を追って悪化しつづけています。商工会の会員たちも売り上げ不振、過当競争、販売価格の下落、売掛金の回収不安、資金繰りの悪化等々、その経営は困難を極めています。

 わが国の行政システムが高コストで非効率とは言い尽くされています。だから政府によって構造改革が試みられているのでしょう。当然、商工会も行政機関の一つとして、努力してコストに見合う業務効果を上げなくてはなりません。「耐えがたい痛みを我慢させられるのは民間だけか…」と会員たちのため息が耳元で聞こえてきます。

 「安市」「歳の市」「イルミネーションコンテスト」のようなイベント、「桜並木の枝打ち、下草刈り」「村内道路の空き缶拾い」などのボランティア、そして「職員や役員が講師の村民向けパソコン研修」「東京での雪だるまを使った観光宣伝」「県内初のフィルムコミッションの事業化」と独創的な事業や個性的なイベントを数多く実行して村の活性化と産業構造の改革を目指してきました。これを通じて職員のやる気をも喚起しよう、その能力と質を可能な限り高めてもらおう、報酬に見合う働きをしっかりとしてもらいたい、そして自らの力で達成感を手にしてもらいたい―。地域振興の基本の目的は地域の人的資質の向上を図ることである、とも考えて運営にあたってきました。

 経営改善普及事業という国の政策による補助金で運営される商工会には制度本来の目的を逸脱できないという制約はありますが、条件の許される範囲で可能性を確かめたいと考えています。すでにどの事業も順調に運営され、目覚ましい成果をあげられるようになりました。目的意識が高揚してきて個々の能力が確実に増してきていると自己評価しています。先行きに数多くの困難を抱える社会環境ではありますが、時代にしっかりとついて誰もが希望をもって経営に臨める産業構造を見いだし、質素でも落ち着いた力強い暮らしを村にもたらすために次なる策を探っていきたいと考えています。

(上毛新聞 2002年10月4日掲載)