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自治医科大学講師 茂木 秀昭さん(栃木県南河内町)

【略歴】館林高卒。慶応大学、コロンビア大学大学院修士課程修了。京都ノートルダム女子大文学部講師を経て現職。著書に「ザ・ディベート」(ちくま新書)、「論理力トレーニング」(日本能率協会)など。

日本版ロースクール


◎実践的な法学教育を

 国際化への対応などを含めた二十一世紀の新しい司法のあり方を巡り、司法試験偏重を改め、質の高い法曹人口の大幅増をはかる方策として、法科大学院(日本版ロースクール)が平成十六年度から開設されます。法学部以外の学生や社会人にも門戸を広げ多様な人材を受け入れるとともに、法的知識のみでなく、幅広い教養と豊かな人間性をもった法律家を育成し、国民により開かれた司法を実現するというのが司法改革の趣旨です。その方向性は良しとしても、当初「原則三年の修業年限で、法律を学部で学んだものには二年での修了を認める」としていたものが、「実質的に二年コースが主で、法学部以外の学生は三割程度とする」という方針が主流となりそうな状況です。これでは、司法試験のための受験勉強が学部からさらに大学院で二年延びるだけに終わるというのは杞憂(きゆう)でしょうか。このままでは、判断力、思考力、分析力や表現力などより実践的な能力を養成するとの教育理念の実現も危ぶまれます。

 アメリカのロースクールでは、問答方式で授業を進める「ソクラテス・メソッド」や模擬裁判などのシミュレーションを行っていますが、その基本となるのは、一方の立場で検討した後に、反対の立場から検討することを学ぶ相対的なものの見方や客観的な論理展開能力です。こうした能力を養成するのがディベートなのですが、日本の法曹界の一部にはディベートへの誤解が見られ、有効な法学教育の手段の一つとしてどこまで認識されているのか心もとない気がします。

 ロースクール出身で弁護士資格を持つアメリカ人の友人が「ディベートは、両方の立場に立って、ケースを分析し、議論を予想して反論を用意したり、事実や証拠に基づく主張を組み立てたりと、公判の準備のプロセスそのものである。また裁判に持ち込まないで和解するための交渉能力にも応用できるし、法廷弁論や反対尋問の訓練としても最適である。ディベート能力は法曹界の人材育成には不可欠である」と述べていました。

 実際アメリカの政界、法曹界や学会における人材の50%以上が、学生時代にディベートで活躍したとの報告もあり、大会で優秀な成績を収めた学生には学費全額免除を含むディベート奨学金を出している大学もあります。調査能力、コミュニケーション能力、判断力、論理的思考能力などのディベート能力に秀でている人に対して社会のリーダーとしての資質を備えていると認め将来に期待して大学としても後押しするということが、社会的にも通念になっているのです。

 そうした状況ゆえ、アメリカでは、法曹界志望者は、遅くてもロースクール卒業時までにはそうしたディベート能力を身につけていることが前提になっています。
 日本版のロースクールや学部レベルでも、従来の法解釈や判例暗記を中心とした教育から、実務に必要な能力を養成する実践的な法学教育を導入する好機とするべきでしょう。

(上毛新聞 2002年10月11日掲載)