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高崎のまちづくりを考える会代表 渡部 恵知子さん(高崎市上中居町)

【略歴】高崎市出身、武蔵野音楽大学ピアノ科卒。1974―79年、東京農業大学第二高校音楽科講師、99年度高崎女性経営者研究会会長、92年プチローズ設立、代表。

リトミック


◎「人間力」ある子供育成

 現在、私は幼児音楽教育のリトミックを楽しく学んでおります。このリトミックとはスイスの作曲家・音楽教育家のエミール・ジャック・ダルクローズ(一八六五―一九五〇年)により考案された、音楽による人間教育のプログラムです。世界各国の幼児教育の先生方や日本の保育園・幼稚園でもとり入れられ、評価の高い幼児音楽教育システムです。

 ダルクローズの着眼は、赤ちゃんから幼児・子供へと成長する「心とからだ」の発達段階に合わせ、子供たちが音楽のリズムに反応して身体表現することで、人間としてとても大切な「感じる心」「創造する心」そして気持ちを表現する「自己表現力」を身につけさせることです。知識の詰めこみ主義は偏差値尊重のゆがんだ学歴社会をつくり、自己判断できず指示待ちでしか動けないロボット人間を育て、血のかよった感情ある子供たちにひずみを与えているのはご存じのとおりです。

 さて、このリトミックの魅力ですが、2―3歳から、音楽のリズムに合わせ、飛んだり跳ねたり、お馬さんや魚になったり、お友達やお母さんと手遊びをして楽しく学ぶうち、からだで覚える体感経験を積み重ねることで注意力や集中力、自分自身をコントロールできる強い意志力を養い、身心の調和を図る「人間力」のある子供へと育つのです。

 さて「生きる力」を育てるには五感が重要とされております。この五感とは、みる(視覚)きく(聴覚)ふれる(触覚)あじわう(味覚)かぐ(きゅう覚)の感覚のことです。私たちが心地良いと感じる快感と、嫌だなと思う不快感に大きく影響しているのです。

 私は不愉快なことばかりで疲れた時、群馬の森を散歩して、心も体もリフレッシュします。この公園は近場で自然を満喫できる大好きな場所です。この季節は葉の色彩に感激し、子供たちの遊ぶ声に和み、カサコソと音を立てる落葉のクッションを足裏に感じ、枯葉と土の混ざったにおいをかぐと妙な懐かしさを覚え、きのこご飯の味までも思い出されます。私にとりまして五感フル活用の散歩は人間回復のリハビリなのです。

 また逆も真なりで、五感にストレスを与えると人間性が失われやすいのです。暴力や殺人シーンを見、コンピューターがつくった音楽を聴き、肌に伝わる木のぬくもりも知らず、添加物いっぱいの食事をし、合成香料の化粧品や日用品にとり囲まれた今日、私は二十一世紀を生き抜く子供たちのために何かをしなくては…と真剣に思っております。

 その一つがリトミックなのです。犬は喜怒哀楽を全身で表現しますが、美しい夕焼けを見て「あーあ、何てきれいな夕日だワン!」と感動するでしょうか? この感動する心こそが人が人間になる証しなのです。五感は幼児期に著しく成長するそうです。この時期に音楽による人間教育をモットーとしたリトミックは、大変重要な役を担っていると思うのです。

(上毛新聞 2002年11月3日掲載)