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小泉重田小児科理事長 重田 政信さん(高崎市飯塚町)

【略歴】東大医学部卒。医学博士。フルブライト留学生として渡米。現在高崎市で開業。国際ロータリー在日委員として世界のポリオ根絶に努める。厚生労働省「多民族社会の母子の健康」研究班班員。

メディアと青少年


◎利用法の教育が必要だ

 青少年を取り巻く教育環境は、近年の情報化社会の進展に伴って予想を超えるほどの変貌(ぼう)を遂げている。ことし一月の民間世論調査によると、小学生で一日四時間以上テレビを見る子どもは全体の32%を占め、小六では35%が四時間以上、65%が三時間以上テレビを見ている。こうして子どもがテレビと付き合う時間は学校での年間総授業時間数に匹敵するといわれる。

 一方、内閣府が平成十三年に発表した小・中学生の親子の接触時間は、一日平均「一時間程度」が26%で最も多く、「三十分程度」が21%でこれに次ぎ、「ほとんどない」から「二時間程度」までが全体の78%を占める。三時間以上は22%であり、四時間以上はわずか11%に過ぎない。これにより家庭での親子の接触時間はテレビ視聴時間に比べてはるかに少ないことが分かる。学校週五日制の完全実施によっても親子で過ごす時間はあまり変わっていない。小学生は放課後の自由時間の70―75%をメディア遊びに費やしている。また、地域社会との関係を文部科学省の国際調査で見ても、日本の子どもは地域社会のボランティア活動のような教育行事への参加率が低い。

 従来から子どもの人間形成の三本柱として家庭・学校・地域社会があげられてきたが、これからは四本柱の一つとしてメディアの影響を大きく取り上げる必要があろう。従来から青少年に影響を与える社会環境の中で、原発問題のような自然環境汚染や、BSE(牛海綿状脳症、狂牛病)に代表される食品衛生など、自然科学的環境に対する倫理問題には社会的な関心が高いが、メディア環境に対する倫理問題はまだ十分な議論が尽くされていないと思われる。米国小児科学会では子どもにテレビを見せるときの注意事項をあげ、二歳未満の乳児にはテレビ画面を見せないように勧告した結果、病院の小児科待合室からテレビが姿を消したという。こうした年齢や脳の成熟を考慮した立場からも、メディアの利用法を再検討することの重要性が指摘され、同時に青少年がこの情報化社会を賢く生きるための知恵としてメディア・リテラシー(メディアを利用する能力)を体得する必要性が強調されている。

 今年七月に公表された内閣府の調査によると、現在使用している情報機器では携帯電話が75%で最も多く、パソコンがこれに次ぐ。また、インターネット利用経験者は七割以上を占めるが、新聞は全く読まない人が22%もいる。ある全国紙がこの十月に実施した読書調査によると、この一カ月間に全く本を読まなかった人が54%に達している。高校生の七割弱が毎日Eメールで友人と連絡していることを考えると、文化の伝達形式は劇的な変化を遂げたといえよう。携帯電話やインターネットを主流とする青少年のメディア選択は対人関係の希薄化を招くという指摘も多いが、これらの通信手段は身体的自由を失った高年齢層には最も適したコミュニケーションの手段になりうる。高齢者がその経験を広く世に発信する効用は大きく、青少年世代がボランティア活動として高齢者にこうした情報機器の利用を普及させることが望ましい。これからの情報化時代の青少年に対しては、それぞれの発達段階に応じたメディア・リテラシーに対する教育の必要性が一層痛感される。

(上毛新聞 2002年11月5日掲載)