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日本原子力産業会議常務理事 町 末男さん(高崎市中豊岡町)

【略歴】京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。元原研高崎研究所長。1991年から9年間、日本人として2人目の国際原子力機関(IAEA)事務次長。特許多数。紫綬褒章受章。

日本人の存在感


◎積極的に世界へ出よう

 野球選手が米国で活躍している様子が毎日のようにテレビで映され、日本人を勇気づけている。しかし、一般的に見ると国際的に日本人の存在感が小さい。

 資源が少なく、国内市場も限られている日本は一国では生きてはいけない。日本人一人ひとりが目をもっと世界に広げ、その動きに積極的にかかわっていくことが大切だ。

 国際機関での十二年間にアフリカ諸国など多くの貧困な国を訪れたが、そこで働く日本人の専門家にめぐり合うことは少なかった。欧米の専門家が定年後でも、現役でも、恵まれない途上国の人々とともに現地で問題解決に取り組んでいる様子を見た。

 先日、南アフリカで開かれた「持続的発展のための世界サミット」の議論は、いかにして世界の貧困を減らすかということに集中した。貧困は人間の尊厳を奪い、社会不安の原因にもなる。日本人には遠い国の話かもしれないが、世界では九億人もの人が、食糧不足で慢性栄養失調に苦しんでいる。中国の発展は北京、上海では目を見張るほどだが、十三億もの人口をもつこの国では千人に九人しかテレビを持っていない、という貧しさだ(世界アルマナック)。バングラデシュにいたっては、電気を使える人は二割に過ぎないという。

 そのバングラデシュのダッカを十五年ぶりに訪れた。驚きは空気のひどい汚染だった。十五年前は自動車は数えるほどしか走っておらず、人力車がのどかに走っていた。街は貧しくても静かで、空気はきれいだった。いま友人のチャウドリ博士は暗い顔で言う。「バングラ製の三輪車タクシーが、ひどい排ガスを放出して街を汚染している」「開発がもたらす環境の崩壊が人々に悪影響を与えている」と。政府はエンジンの改良を考えているというが、自前の技術では時間がかかる。国民のために途上国の開発は必要だ。しかし、環境を壊さないで開発を進めることが条件で、日本のような先進国からの技術提供と専門家による指導が大事な役割を果たす。

 国連機関の経費の20%は日本が拠出している。この比率はアメリカに次いで世界二位である。これは誇るべきことであるが、問題は人的貢献の少なさである。筆者が最近まで働いていた国際原子力機関(IAEA)では、日本人職員はわずか1%に過ぎない。資金は出すが、人材が出ないので「日本の顔」が見えにくい。これはなぜか。国連機関の仕事が知られていないので、応募する人がいない。自分とは関係ない世界と思っている人が大部分だ。外国で、その上英語での仕事というのも障壁になっている。国連機関は国際紛争の解決のみならず、農業、医療、環境、教育、原子力など人類の福祉と平和のために活動している。国際社会の中で、日本人は平和な世界の実現にもっと深くかかわることを怠ってはならない。国際的協調と平和なしに日本は存在し得ないのだから。

(上毛新聞 2002年11月25日掲載)