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元中学校教員 高橋 義夫さん(松井田町行田)

【略歴】国士館短大卒。1957年に松井田町立臼井中学校教員となり、以来35年間同町周辺の中学校で生徒指導に取り組む。91年に指導の記録をまとめた著書「中三の君らと」を出版した。

学校5日制


◎生きる力は養えるのか

 学校が五日制になって八カ月が過ぎました。五日制はゆとりと生きる力を養うことを目標にして始まった制度です。なのに一年もたたないうちにもう揺れ始めています。

 最近のテレビなどの報道によると、東京都などでは、学区制の問題が検討されているようです。高校だけでなく義務教育においても、学区制をなくしていくようです。

 その原因は大学進学が大本にあるように思われます。そして、それは小学校にまで及んで、小学生に一斉の学力テストを実施したとか、するとか言われています。これでは学校間で競争させるようなものです。ゆとりなどまったくなくなります。
 五日制を始めた文部科学省はこの事実をどう考えているのでしょうか。自分たちの施策に対して信念があったのでしょうか。五日制を始めた目的はゆとりある教育で生きる力を養うことだったはずです。

 わずか八カ月の間に、何だか逆の方向へ向かっていくように思えます。

 ややもすると私たちも、学力を高めて高学歴をつけることが幸せにつながるように思いがちです。確かに学力は生きる力の一部だと思います。しかし、学力よりもっと大切なものがあります。

 人間にとって大事なことは、ひとりになっても生きていけることです。例えば三歳の子供がひとりで生きていける力は、食事の時に「いただきます」「ごちそうさまでした」が言えて、ひとりで用便ができて、ひとりで着替えられることです。これができれば孤児の施設へ入ってもたくましく生きていけます。

 これが基本的な生活の第一歩です。そしてこれは親でなければできない教育です。

 また、子供は成長するに従って自分の学力も分かってきます。勉強の不得手な子はそれだけで、自分は他人より劣っているように思いがちです。そんな落ち込みかげんの子に、親や先生が「○○は算数は得意ではないけれど、○○は学校は一度も休んでいないしさ。掃除も実にうまいよ。本当にすごいよ」と、助言してやることも、生きていく力をつけてやることにもなると思います。

 今年四月、五十六歳になる人たちの同窓会に集まった四十五人の中には、中卒の人も大卒の人もいました。みんな自分の生き方に自信と誇りを持っていました。

 酒がまわってくると中学時代の思い出話になりました。山や川で遊んだこと、部活で泣いたこと、国語の時間に川へカジカ捕りに行った日のこと、しかられたこと、など話に花が咲きました。

 そんな話をしめくくるように、高卒で大手の会社の営業部長の彼がいみじくも言いました。「あの遊びや悪さの中から、生きる知恵をずいぶん学んだよな。おれたちが中学で受けた教育が、今言われているゆとりと生きる力を育てることなんだよな」でした。

(上毛新聞 2002年12月1日掲載)