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(株)新進技術顧問 遠藤 悦雄さん(前橋市昭和町)

【略歴】富山市生まれ、東京教育大卒。1956年、新進食料工業に入社し、94年から技術顧問。昨年、技術功労部門で農林水産大臣賞を受賞。現在、発明協会群馬支部前橋分会の副会長も務めている。

田中耕一さん


◎変人が大発明を生んだ

 今年のノーベル賞は物理学賞が小柴昌俊東大名誉教授、化学賞は島津製作所の田中耕一さんのダブル受賞となり、この不況のさなかに世界に日本の技術の根強さを認知させました。技術離れの若者に大きな刺激を与えたことでしょう。

 私も偶然、田中さんの母校富山中部高校の同窓として、また開発研究畑を長年歩んだ一員として、手に取るように偉大さが伝わってまいります。

 雄大な立山連峰を仰ぎ、とうとうと流れる神通川の山紫水明の富山で育ち、学び、緻(ち)密にこつこつやる越中魂の勝利でなかったかと思います。

 私も一技術者として、四十五年近く食品の開発畑で多くの発明と特許(十二件)、新製品の開発をして、賞も頂いてまいりましたが、田中さんの言葉「変人だから周りが放っておいてくれた。変人をうまく活用できました」には私も全く同感で、変人が大きな発明を生んだのです。

 他の多くの束縛を多く受けるような環境だったり、若くして管理職になったり、とかく営利の追求を求められる企業の中での研究は、大きな発見にはつながらないのです。

 いつも孤独・変人で、失敗を恐れずに、その中から可能性を追い求め、実験を繰り返す。おかしな結果が出たらすべて突き止めて、絶えず世界の情報をキャッチして装置も考案し、新しい技術を特許とともに確立していく。よく四十三歳の若さであのノーベル賞受賞の偉業をなし遂げたと感心する次第です。

 四十二歳の若さでノーベル物理学賞を受賞された湯川博士による、現在の原子力利用の基礎理論の素粒子論の発見は、多くの実験の積み重ねの集大成として夢の中で発見されたといわれています。

 最近、社員の発明に関しての報奨金制度に対し、青色発光ダイオード、味の素のアスパラテーム、関西ペイント等で問題視されていますが、このたびの田中さんの島津製作所では、一千万円が既に決まったことに賛同いたします。

 現在の日本企業の考えは、企業がすべての経費を出費して生まれた発明、特許はすべて会社に譲渡し、会社の権利と考えられているのが常識となっており、その発明品が利益を出したとしても報奨金がないのが普通です。

 しかし、発明者に対する国の褒賞は、すべて個人であるごとく、企業としても個人としてのそれまでの努力に何らかの報いがあってしかるべきでしょう。

 日本は、これまで科学技術で世界をリードしてきましたが、最近子供や学生の理科離れが加速していて、将来は決して楽観できないとされています。一方これまで蓄積された技術が多く海外に流出されているのが残念です。こうした偉大な発明・技術が日本の底辺にあることを認識して、「技術立国」を目指しさらなる技術開発を願っています。変人・技術が日本を救うのです。

(上毛新聞 2002年12月4日掲載)