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県高齢者生活協同組合専務理事 大塚 肇さん(前橋市広瀬町)

【略歴】中央大法学部卒。医療事務会社社長、県高齢者生活協同組合設立準備会事務局長を経て2001年、組合設立と同時に専務理事に。日本労働者協同組合連合会センター事業団群馬事業所長も務める。

高齢社会


◎知恵と経験を生かそう

 日本社会の高齢化が進み、高齢者の割合が増えてくると、生産労働人口が減る一方で、医療福祉年金など社会保障の負担が増えます。その結果、活力がなくなり、厄介なお荷物を背負わされた、危機的な社会が到来するという考えがあります。

 確かに、高齢者は身体機能が低下するため無理な労働に適さず、商品も多くを買いません。病気や介護の問題も起こりやすいといえます。

 しかし、高齢者の八割は元気です。長年の人生で培った知恵も経験も豊富です。偽物を見抜き、本物を見極める目も持っています。高い技術もあれば、さまざまな調整が上手な方もいます。ほとんどの方は、資産をある程度と自由な時間をたっぷり持っています。そうだとすると、一概に高齢社会を危機的な社会というのは、一面的な見方というべきです。むしろ高齢者が積極的に社会参加するならば、効率優先や大量消費にばかり価値を置くのではなく、もっと落ち着いていて生活にゆとりと潤いのあるような社会になるのではと思います。

 ところが日本では、元気な高齢者の知恵や経験などを生かす場が広く開かれていません。定年制は整っていても、就労支援の仕組みは不十分なのです。もったいないことです。

 もちろん、人の人生のあり方はさまざまです。何か人のためになるようなボランティア活動をしたいという方もいれば、定年後は俗世間から離れて悠々と生活したい、という方も多いと思われます。

 しかし、健康である限りは働いていたい、と望んでいる方も少なくありません。理由は、収入・生きがい・社会貢献・自己実現などです。もっとも、雇う側にも都合があり、高齢者の就労は歓迎されないようです。かといって、法で定年を引き上げることも簡単ではありません。

 では、高齢者が自ら出資し、共同で経営をして働くという方法はどうでしょう。誰かに雇われるのを待つのではなく、一人一人が主役となり共同で仕事を起こすのです。営利本位ではなく社会貢献を目的とするなら、競争ではなく共生を理念とするなら、グローバルスタンダードにこだわるよりも住み慣れた地域を基礎とするなら、再び無理のない範囲で現役に復帰してもよいとは思いませんか。

 今、このやり方に共感する方々が、思いを持ち寄って活動し始めました。介護に、独居高齢者への配食に、福祉散髪に、商店街の活性化に、農業問題に取り組んでいます。新しい可能性に挑戦し、社会的テーマに切り込み、出会いを楽しみ、他人を思いやり、互いの支え合いを大切にし、自分が必要とされる存在感に喜びを感じている姿は、実に生き生きとしています。NPOという仕組みもありますが、多数の人を共同させる、継続した事業を通じて社会的使命を実現する就労を創出するという点で、協同組合の仕組みが優れています。

 高齢期は、余りの人生ではなく人生の仕上げの時期です。身体は衰え病んでも、人格形成は続きます。最期の一瞬まで輝いていたい。輝き方はいろいろです。知恵と経験と自由を有効に使い、共同して労働することをその一つとして選択してみませんか。

(上毛新聞 2002年12月23日掲載)