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高崎捺染協同組合理事長 清水 英徳さん(高崎市昭和町)

【略歴】高崎高、立教大理学部化学科卒。清水捺染工場代表取締役。元ライオンズクラブ複合地区(本県など5県)管理委員長。染色の全国大会で通産大臣賞をはじめ中小企業庁長官賞など受賞多数。

あれから1年数カ月


◎相互理解の精神を養え

 昨年の七月、アメリカのインディアナポリスにおいて、ライオンズクラブの第八十四回国際大会が開催されました。その際、大会の合間をぬって、ニューヨーク観光をしました。間近で「自由の女神」を見て、従来のマンハッタン側から遠く眺めるのと違って、台座が四十五メートル、像が四十五メートル、計九十メートルの高さと、青みがかった像の美しさに圧倒されました。

 近くのエリス・アイランドにも立ち寄りましたが、その島は昔、移民管理局があったところです。遠くヨーロッパやアジアから、より良い生活を求め、もしくは故国を追われて生きのびるために必死の思いで、人々が新大陸での一歩を踏み出した場所であり、移民の国アメリカの歴史の原点ともいえます。

 メトロポリタン美術館を見学し、初夏のセントラルパークを散策し、あらゆる文化・人種が共存しているニューヨークの町を満喫しました。夕食には知人の招きで、世界貿易センタービルの最上階にあるレストランで、地上四百二十メートルの眺めを見ながら食事をしました。眼下に雲が現れては消え、雲の切れ間からはマンハッタンの暮らしが現れ、その絶景は生涯忘れ得ないものとなりました。ニューヨークの町の大きさは、そのままアメリカの国力の強さの象徴であるという印象を受けました。

 しかし、私の帰国後間もない九月十一日、同時多発テロが起き、ニューヨークでの一夜の思い出をつくってくれたあのビルは、一瞬のうちに崩れ去りました。アメリカの富の象徴であったビルが、今はもうない…。

 テレビの映像を見て、自分の目を疑いました。マンハッタン島の外観も、あのビルが無くなっただけで全く変わってしまいました。

 事件後一カ月ほど過ぎてから、息子がニューヨークの知人に会いに渡米した際には、当然のことながら機内は空席が目立っていたとのことで、人々がいかにテロの脅威を感じたかが分かりました。そして、あのテロ事件は、国家が危機にみまわれた時、ブッシュ大統領をはじめ指導者がいかにリーダーシップを発揮し、危機を乗り越えていくかという、その過程を全世界に印象付けた出来事でした。その対処の迅速・的確さは、わが国にも学ぶべき点が多々あったのではないでしょうか。

 その後、世界中で大小のテロ事件が多発しております。フランスでタンカーの爆破、ロシア・モスクワの劇場占拠、インドネシア・バリ島での爆破事件、最近ではケニア・モンバサでのイスラエル人を標的にした郊外ホテルの事件など、不安の状態が続いております。

 せっかく、人類が長年にわたって築いてきた貴重な文化・文明を、一握りのテロ組織によって無残にも破壊されることは、何とも残念でなりません。これからグローバリゼーションが進む地球上にあって、一触即発の危機が余りにも多すぎるのではないでしょうか。これからは、異なった国々の思想・宗教・国家体制の違いを乗り越えて、相互理解の精神を養うことは人類に課せられた使命であると思われます。テロや戦争のない平和な世の中になることを願ってやみません。

(上毛新聞 2002年12月24日掲載)