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野反峠休憩舎勤務 中村 一雄さん(六合村入山)

【略歴】六合村立入山中卒。理容師専門校卒業後、神奈川県平塚市で理容師となる。1974年、六合村に戻り、父とともに野反峠休憩舎を経営。環境省の自然公園指導員や県の鳥獣保護員を務める。

動物の食害


◎人類と同じ過程歩む

 昨年もいろいろな野生動物を目にしました。遠くの急斜面を横切るクマや、エサを求めて粉雪の舞う野反湖をさまようテンなどには自然の中で生きる厳しさを実感させられました。

 芽吹きを待つ早春の枝に何がなってるんだろう? と思ったらサルの群れだったりしたこともあります。

 クルミの実をくわえて道を横切るリスのかわいさには車を止めて見入ってしまいました。ニホンカモシカは見たいと思えば苦労もせずに見つけられるポイントが何カ所もあります。

 キツネやタヌキ、個体数が減っているとはいえノウサギなども見ることができました。

 イノシシを見ることはできませんでしたが、その数は確実に増加しています。

 野生動物が身近にいるということは、自然環境が豊かな証拠かもしれませんが、喜んでばかりいられない現実が、最近急増している動物による農作物の食害です。特にここ数年、イノシシとサルによる食害が急激に増加しています。サルによる農作物被害はシイタケ、ネギ、イモ類の野菜を中心に農作物全般にわたって発生し、平成十四年の被害額は五百万円をはるかに超えているものと思われます。サルによる被害は農作物にとどまらず、民家や商店に侵入して部屋の中を荒らしたり商品を持ち去る、通学路や学校付近で女性や子供を威嚇するといった事例も報告されています。

 イノシシによる被害額はイモ類やトウモロコシなど報告されているだけで百五十万円を超えていますが、一回の出産による子供の数が十匹前後ということもあって、今後さらに被害が増えることが予想されています。

 サルやイノシシに隠れて見過ごされがちな、クマやカモシカによる食害も減っているわけではありません。

 こうした動物による農作物被害に対して、六合村では平成十四年度において有害鳥獣対策費として五百七十一万円を予算計上しています。

 トウモロコシ畑をぐるりと囲むクマよけの電気柵(さく)を設置する労力を思うと、自然保護の立場にいる者としても有害鳥獣対策の重要性を認識せざるを得ません。

 かつては人目につかない山奥で生息し、めったに目にすることがなかった動物たちが農作物に食害を与えるようになった背景には何があるのでしょうか。

 落葉広葉樹林を伐採してスギやカラマツを植林した森林行政に原因を求める声も聞きますが、それはひとつのきっかけに過ぎず、人類が新しい土地を求めて移動し、新しい食べ物を開拓してきたように、動物たちもまた同じ過程をたどっているように思います。

 観光客が車を止めて、道路に出てサルにお菓子をやっている光景を目にすることもあります。

 サルばかりでなく、いろいろな動物に新しい味をおぼえさせ、人に対する緊張感を失わせるようなおこないもまた、有害鳥獣を生むきっかけになっています。

 今年も距離と緊張感を保ちながら多くの動物たちを見られたらと思います。

(上毛新聞 2003年1月3日掲載)