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県自然環境調査研究会員 松澤 篤郎さん(館林市富士原町)

【略歴】館林市出身。県立館林中学校、日本大学文理学部卒。東京大学理学部植物学教室留学。小・中学校で理科教師、小学校で校長を務める。現在、館林市環境審議委員、板倉町文化財調査委員。

帰化植物


◎自然界に大きな影響

 普段、庭先で踏んでいる雑草も気付かないうちに外国産の草に入れ替わっている。例えばアメリカ原産のハルジョオン、ハキダメギク、コニシキソウ等、物いわぬ植物の世界も帰化植物と在来種との間にはげしい競合が行われ、国際化といえる時代となったのである。これらの植物が人間社会や自然界に大きな影響を及ぼしている現実をご紹介しようと思う。

 日本列島は島国だから外国から侵入する植物は海を越えて入るわけで、大陸と違ってその点はっきりしている。古い時代、稲作とともに南方からイネの随伴植物として入って、水田や人里近くに見られる雑草のイヌタデ(アカノマンマ)、カヤツリグサなど、文献上から明りょうな記録が残されていなくとも、古い時代に渡来した植物を史前(しぜん)帰化植物といわれる。現在は帰化植物といわれるものは江戸時代末期から現代にかけて入ってきたものを一般的に帰化植物といい、それも戦後の世界各国との貿易が大きな原因と考えられる。

 いくつかの例を挙げてみると、晩秋のころより、空き地、道路端、河原、原野のいたるところに黄金色の花穂(かすい)を波うたせて埋めつくすように咲く花のセイタカアワダチソウ。気付かれている方も多いと思う。これは北アメリカ原産で、明治の中ごろ、観賞植物として日本に持ち込まれたものらしいが、帰化植物として急激に増えだしたのは第二次大戦後のことである。和名の由来は背高泡立草で、黄色の花穂の泡立ちのような姿と草丈が高いことによる。これが初めて群馬県で見られたのは一九七三年の秋、板倉町海老瀬の旧前橋・古河線の県道端に少数見られた。その後、野火のように広がり、二十九年の間に県内の山間地まで広がっている。田畑への侵入、作物への影響、湿原や河原、里山、山間部まで入り生態系の均衡が危ぐされている。

 一方、輸入飼料に混入されて入る植物の、つる植物マルバルコウソウや、繊維質の強いイチビの種子が家畜の糞(ふん)にそのまま混じってそれをたい肥に完熟する間もなく飼料用トウモロコシ畑にまくため、トウモロコシがマルバルコウソウのつるにからまれて成長が阻害される。また、イチビの勢力に肝心のトウモロコシがおさえられてしまう。全国の畜産農家の悩みを、前に新聞記事で見たことがある。

 郷土、館林市・邑楽郡の帰化植物の生態を調べた結果、一九五〇年ごろには約九十七種、七二年には約百四十八種、九三年には約百八十種、二〇〇二年の秋には二百種に達しようとしている。近年は尾瀬ケ原にも人の出入りが多くそれにともなって、コカナダモ、コヌカグサ等の帰化植物が入り、山深い山間地まで、コセンダングサ、セイヨウタンポポなど帰化植物が目立つようになった。帰化植物は、絶えず人間の影響のある場所に生育するので、自然破壊の指標植物とも呼ばれている。生態系の均衡が崩れ、生物多様性を脅かしている現状である。帰化植物はすべて悪者ともいえない一面もあり、オランダガラシは食用に、ニセアカシア、セイダカアワダチソウは蜜(みつ)源になったり、春、土手一面に黄色い花を咲かせるセイヨウアブラナ、セイヨウカラシナの花は人々に風情を与えてくれる。

(上毛新聞 2003年1月11日掲載)