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日本原子力研究所高崎研究所材料開発部長 南波 秀樹さん(高崎市綿貫町)

【略歴】前橋高、東京工大大学院博士課程修了、理学博士。米ミネソタ大、独カールスルーエ原子力研究センターなどで研究。日本原研企画室調査役など歴任。現・群大大学院客員教授。前橋在住。

宇宙と原子力


◎双方に貢献する研究

 先日、私の勤めている日本原子力研究所と宇宙開発事業団との共同研究の懇談会のために、宇宙開発事業団の筑波宇宙センターを訪問した。宇宙と原子力というとあまり現実的なイメージをもたれない方も多いかもしれないが、実は高崎研究所で行っている研究開発は、宇宙開発にも貢献している。

 日本原子力研究所高崎研究所は、放射線利用の研究所で、いわば放射線の専門家の集まりである。一方、宇宙空間は放射線が雨あられと降り注いでいる世界である。放射線というと“怖い”というイメージを持たれる方も多いのではないかと思うが、放射線は宇宙創生以来自然界に存在し続けている。しかしながら、この放射線が“発見”されたのは、わずか百年ちょっと前にすぎず、日常生活で私たちが意識することはほとんどない。この自然界に存在する放射線は、大地を構成している岩石や土壌中から、あるいは呼吸や食物を通じて取り込まれた体の中の放射性物質から放出され、常に私たちの体に当たり続けている。私たちは、これらの放射線と文字通り、生命誕生以来共存し続けているわけである。

 放射線には、この地球由来のもの意外に宇宙からくるものもあり、これを宇宙線と呼ぶ。今回ノーベル賞を受賞した小柴昌俊先生のニュートリノも宇宙線の一種である。地球は分厚い大気の層にくるまれているため、宇宙から来る放射線の大部分は吸収され、地上には届かない。このため、私たちの体にあたる宇宙由来の放射線の量は、地球由来の放射線量の十分の一ぐらいである。しかし、上空に行くにつれてこの量は大きくなり、例えば、東京とニューヨーク間を飛行機で一回往復する時に当たる放射線量は、地上での一年分の宇宙由来の放射線量とほぼ同じくらいとなる。

 大気のない宇宙空間では、この放射線の影響は非常に大きくなり、通信衛星などの人工衛星の主要機器である太陽電池や半導体部品などは、この放射線の影響で故障や劣化をおこしてしまう。このため、高崎研究所の世界最先端のイオンビーム照射施設や電子線照射施設を用いて、宇宙空間で起こるこういった現象を解明するための共同研究が行われている。これらの研究の成果は、当初の予定軌道からずれてしまった人工衛星「きく6号」や「かけはし」の太陽電池の正確な寿命評価を行い、その後の運用計画策定に貢献するなど、宇宙開発に直接貢献している。また、昨年十月に高崎市のシティギャラリーで開かれた「宇宙用半導体素子放射線影響国際ワークショップ」では、昨年二月に宇宙開発事業団がHIIA2号機を用いて打ち上げた民生部品・コンポーネント実証衛星「つばさ」を用いた実験が注目を集めていたが、この基礎データとなる地上実験も高崎研究所の施設を用いて行われている。

 さて、冒頭で述べた今回の訪問時に、筑波宇宙センターでNHKの朝の連続テレビ小説「まんてん」のロケが行われたとの話を聞いた。科学技術に対する夢や期待が翳(かげ)りを見せているといわれる中で、こういった分野にも関心を持っていただければ幸いである。

(上毛新聞 2003年1月21日掲載)