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日本原子力産業会議常務理事 町 末男さん(高崎市中豊岡町)

【略歴】京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。元原研高崎研究所長。1991年から9年間、日本人として2人目の国際原子力機関(IAEA)事務次長。特許多数。紫綬褒章受章。

日本のエネルギー


◎原子力の理解広めたい

 かつて日本を襲ったエネルギー危機の時、スーパーでトイレットペーパーを買うのに行列をつくったことを覚えている人もいると思う。エネルギーはわれわれの生活、産業活動の基幹をなすものである。そのエネルギーの自給率がわずか18%(うち原子力13%、水力3%)であることを知っている人は少ない。エネルギー源の50%を占める石油の85%は、政治的安定性を欠く中東からの輸入に依存している。これで「日本のエネルギーの安全保障」は大丈夫だろうか。

 二○○二年六月、「エネルギー政策基本法」が国会で成立した。この法律は三つの基本原則を明らかにしている。(1)供給の安定確保(2)環境適合性(3)市場原理政策の推進―である。自給率18%で「供給の安定確保」は大丈夫か。原子力は原料のウランは輸入だが、エネルギー密度が高いので少量でよく、備蓄が容易であるので準国産と見なせる。政府の計画では、いま電力の34%をまかなっている五十二基の原子力発電を、二○一○年までに約十基増設して40%にするが、一次エネルギーに占める割合はわずか二ポイント増えて15%になる程度である。水力は純国産エネルギーだが、水資源が限られており、また自然環境破壊を伴うので、増加は難しい。

 風力発電はどうか。風と土地のあるドイツ、デンマーク、アメリカで進んでいるが、全世界合計で二千四百三十万キロワット(日本の発電容量の10%程度)に過ぎない。風速六・五メートル/秒以上でないと発電できず、原発一基分百万キロワットの発電所を造るのに「琵琶湖」の三分の一に相当する広大な面積が必要で、狭い日本では適用が制約される。発電コストは原子力の三倍である。政府は二○一○年までに三百万キロワット(発電容量の1・3%)を目指しているが、広い適地の取得が重い課題である。太陽光発電はコストが原子力の約十倍も高く、現状の普及率は非常に低い。世界全体で七十一万キロワットに過ぎず、その中で日本が一番多く、三十二万キロワットを占めている。家庭用の電源の一部、途上国の無電化地域、へき地などに利用されるであろうが、基幹電源とはなりにくい。

 一方、地球の温度はゆっくりと上昇し続けている。夏が暑くなったと感ずる人も多い。高崎の昨夏は三七度を超す日が何日もあった。三十年前にはなかったことである。これは、石油・石炭・天然ガスを燃やすと発生する、大量の炭酸ガスによる「温室効果現象」である。過去百年で日本の平均気温は一度上昇している。南極では大量の氷が融解し、海面が上昇し続けている。南太平洋のツバルなどの島嶼(とうしょ)国では陸地の消失が起こっている。そこで、これ以上の温暖化を防ぐために「京都議定書」が作られ、国際条約で炭酸ガスの発生を減らす。日本は二○一二年までに一九九○年での発生量レベルから6%減らす義務を負っている。このため、省エネ努力に加えて、炭酸ガスを出さない風力、太陽光、原子力の利用を進め、化石燃料の使用を減らす必要がある。前二者は経済性や土地の点で課題が多い。すでに三十六年の実績がある原子力について国民の正しい理解と信頼を広めて、安全確保を大前提に適正に利用することが、エネルギー政策上必要と考えられる。「日本のエネルギー安全保障」と「地球との共生」の観点から国民的議論が求められている。

(上毛新聞 2003年1月24日掲載)