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声楽家・夢詩歌音楽教室主宰 糸賀 真知子さん(沼田市高橋場町)

【略歴】群馬大教育学部音楽科卒。声楽を成田絵智子さんら4氏に師事。日本のオペラを「オペラシアター・こんにゃく座」で学ぶ。沼田市で夢詩歌音楽教室主宰、同市の女声合唱団野ばら会指揮者。

自分の道


◎原点に返り音楽の勉強

 誰でも、ふと自分の人生を振り返って見る時があるのでしょうか。数年前、「人生の前半を経過した」と感じた私は「後半をどう生きようか」と考え始めたのです。ちょうど、自分の歌も「このままでよいのか。これが私の歌だと言えるのか」と思い悩んでいたころでした。ならば、「今までの<たしかめ算>をしてみよう」と思ったのです。もし誤算だったのなら、総決算をし、後半を生き抜く新たな道を模索しよう。この時期を後半の三十年余(自覚せずに生きていた初めの十数年を除外し、平均寿命から引き算すると)を、自分が納得できる方向で生きていくための準備期間と考え、仕切り直してみよう。孔子には十年遅れてしまうが、「五十にして惑わず」と言えるように…。

 まずは原点に返ろうと、声楽のレッスンを再々開。師は若く優しく、知性とユーモアがあり、その奥に深い宇宙を持つ細谷美内先生、そしてドイツリートの大家、原田茂生先生、芸大の学部長でもある高橋大海先生。私は、あらためて歌の美しさ、楽しさ、奥深さを体感しました。若いころに見えていなかったことが見えてくるようで、音楽の喜びがあふれ出てくるのを感じました。思えば、今まで歌を通して、目からうろこが落ちるような思いを何回か体験しました。宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』のオペラ(林光作曲)に感動し、小さな子供三人を育てながらも飛び込んでしまった「オペラシアター・こんにゃく座」の日本語の創作オペラの世界! シンプルなメロディーがこんなにも美しく、楽しく、生き生きと生活に密着し、人々の心を和ませることに驚いた、わらべうたの世界! ハンガリーのウグリン・ガーボル先生の心ときめく合唱の世界! これらに感動し、体当りしてきたさまざまなことが、自分の中に染み込み、熟成され始めていると感じました。

 次に、もっと合唱を極めたいと思い、栗山文昭先生の指導する、女声で委嘱創作曲の演奏を行う合唱団「彩」と混声で林光作曲の創作合唱劇を得意とする「コーロ・カロス」に入団、栗山先生の魔法の棒から生まれ出るカリスマ的な音楽の世界に引きつけられてゆきました。

 一方、自分のコンサートもできる限り開き、その中で「語り」と出合ったのです。子供のころから芝居や朗読が好きだった私が、谷川俊太郎作の絵本『ほうすけのひよこ』をまるごと一冊、歌と語りとピアノに林光が作曲した作品、レオ・レオニ作『フレデリック』(寺嶋陸也曲)、宮沢賢治作『よだかの星』『ざしき童子のはなし』(岡田京子曲)などと出合い、「これが私の歌の方向だ」と思えてきたのです。

 今、賢治の世界に引かれている私です。自分ひとりの幸せばかりでなく、世界全体の幸せを願った賢治。賢治作品を歌うことは、私などには果てしない旅のようなものかもしれませんが…。三月二十一日から季節ごとに、前橋文学館で『賢治と遊ぼう(仮称)』と題して、歌う・聴く・語る・遊ぶことを皆さんと共に楽しむセミナー(コンサート?)を開いてゆく予定で準備を始めております。

(上毛新聞 2003年1月25日掲載)