視点 オピニオン21
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トレーニング指導士 大谷 博子さん(桐生市宮本町)

【略歴】日本女子体育短大卒。3年間、中学校で体育教諭を務めた後、家庭に入り子育てしながら文化活動を始める。1977年児童文学の部門で県文学賞、81年には日本児童文芸賞新人賞を受賞。

スキー合宿


◎多くを学ぶ子どもたち

 子どもは風の子、元気な子―。寒くて、外に出るのが嫌な季節と思われがちですが、動くのが大好きな子どもたちに、「ウインタースポーツの楽しさ」を教えたくて、私たちのスポーツクラブでは、毎年、冬になると、小学生のスキー合宿を実施しています。

 幸い、私たちと願いを同じくする仲間の協力を得、丁寧な段階を追った指導のおかげで、二十年間、事故なく、数多くのちびっ子スキーヤーを育ててきました。

 昨年度、岩原スキー場での合宿の真っ最中、こんな出来事がありました。

 ゲレンデを見ていた私に、立派な体格の青年が、笑顔で近づき話しかけて来ました。

 「先生! わかる?」

 「エッ? T君」

 「うわぁ、覚えていてくれたんだあ…。俺、生まれて初めて、ここでスキー教わって、スキーが大好きになったんですよ。リフトに乗れた時はうれしかったなあ…。今日も会社の仲間たちと滑りに来てるんです。合宿でスキー覚えて、本当に良かったなあ…」

 私は十五、六年前、ちょっと太めだった彼が、滑れるようになるまでの、並々ならない努力の過程を思い、あらためて、続けて行ってきたスキー合宿の意義を考えました。

 どの子もそうですが、生まれて初めてスキーを履いた子は、固いブーツや長い板に自由を奪われ、歩行すらままなりません。

 板と板が重なって転び、やっと登ったかと思うと、後退転倒。思い通りにいかない自分の身体に癇癪(かんしゃく)を起こしそうになりながらも、顔を真っ赤にして頑張れるのは「家族とは違う、寝食を共にしている仲間と一緒だから」という、集団教育の成せる業です。

 疲れて、雪上に座り込んでいる時でも、「がんばれよ!」と、トレインで通り過ぎていく仲間の励ましで、奮闘できます。また、頭上から「オーイ、一緒にリフトに乗ろうね」などと、ストックを振られると、向上心が燃えあがります。

 自転車乗り同様、何度も繰り返し練習する中で、彼も体重の移動やテールの押し出し具合の感覚をつかみ取り、やがて、登行も滑降もターンもマスターしていったのです。

 初めて乗ったリフトから見た景色や、山頂から滑り降りた爽快(そうかい)感、思い通りに曲がれた時の喜びは、今でも忘れられないと、話してくれました。

 二泊三日のスキー合宿をきっかけにして、子どもたちはスキー技術のみならず、たくさんの事を学び取ってくれています。

 「やればできる」から「もっと上手になりたい」に。雪に慣れ親しんでいく中で、さらに技量を高めていくでしょう。

 神経系の発達の著しい、怖さ知らずの風の子たちに、スキーはうってつけの冬のスポーツではないでしょうか。
 「子どものころ覚えて良かった。冬の来るのが楽しみだもの」と言いながら、滑降していったT君の言葉が、私の胸に残りました。

(上毛新聞 2003年1月26日掲載)