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都市計画コンサルタント 横手 典子さん(東京都渋谷区代々木)

【略歴】前橋女高、明治大学工学部建築学科卒、同大学大学院工学研究科修士課程修了。千年広場の会会員。

行政と市民の関係


◎約束とその順守が大事

 「行政は、何をやっても褒められることがない」

 知り合いの行政マンから聞いた言葉だが、全くもってその通り。一生懸命市民のために働いたとしても、褒められるべき事柄はすべて「役所の仕事なんだから当たり前」。少しでも不備があればとたんに苦情が殺到してしまう。とにかく大変な仕事だなあと頭が下がる。

 一方、異議を申し立てる市民側の言い分を言えば「そんな話は聞いていない」「われわれの話は全然聞いてくれない」といった憤りが一番はじめにくる。知らないところで自分に関係のある話が進んでしまうことほど頭にくることはない。家の中だってそうだろう。良い例えではないかもしれないが、夫が勝手に新車購入の手続きをしてきたら、妻は怒る。そういうことだ。

 何が問題かといえば、「勝手に決められてしまう」ということにある。勝手に決められてしまうと、人はその問題に対して冷たくなる。もはや「いい知恵出し合って一緒に解決策を探しましょう」なんて気持ちには到底なれない。結果として「役所の仕事は役所の仕事。俺(おれ)の仕事じゃないからね。しっかりやってよ」となり、「文句ばかり言う市民」と「何をやっても褒められることのない役所」の構図が永遠に続いてしまうことになる。

 行政は長い間、「いい新車を買ったのだから何の文句があるのだ」という考え方をしてきたのではないかと思う。根底には「メカの素人が何を言う。車のことは俺に任せておけばいい」という考え方があるようにも感じる。市民参加の言葉が謳(うた)われ、制度整備もなされてきたが、いまだこうした意識は根強いと思う。

 さて、こんな行政と市民の関係、どこからどうすれば良いのだろう。

 「計画・事業の初期プロセスから市民参加を行い、事業を協働で進めていける体制をつくりあげる」等というのが教科書的な解かもしれないが、あまり実のない話をしてもしようがない。一つだけ有用な策を挙げるとすれば、「小さな約束事をたくさんつくる」ということになると思う。

 両者の不幸ともいえる関係は、互いの不信感によるところが大きい。そして信頼というものは、約束をしてその約束を守ることで生まれるものだ。そんなの当たり前と言われそうだが、実際それは容易なことではない。

 特に行政は、言質を取られるのを嫌がり、市民に対してうやむやな対応をしてしまいがちである。それでは約束を守るどころか、約束そのものすらできないことになる。

 「〜をしてください」「それは今は申し上げられません」。大きな約束をしようと思うからそういう返答になる。もっと小さな約束をすればいい。「それについては〇〇の段階になった時、あらためて話をさせてください」。それでいい。後日その段階がきた時、きちんとその質問に言及すれば、約束を果たせることになる。

 約束できる範囲でいい。ささいなことでいい。「小さな約束」をたくさんすること、守ること。結局は、その積み重ねこそが、市民と行政の関係を幸せなものにする近道だと私は思う。

(上毛新聞 2003年2月1日掲載)