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東洋大学国際地域学部教授・学部長 長濱 元さん(東京都西東京市住吉町)

【略歴】北海道旭川市出身、北海道大卒。文部省、経企庁、信州大などで行政、調査研究、教育に携わる。1997年より東洋大教授。専攻は社会学と政策研究。研究課題は科学教育システムの国際比較。

お金があると七難隠



◎本来の親子関係も隠す

 皆さんは「色白は七難隠す」ということわざをご存じだと思います。「女性の肌の色が白いと、それだけで多くの欠点を隠してしまう(見た目でだまされる)」という意味のことわざです。私は「人材育成論」という講義を持っていますが、最近それをもじって「お金があると七難隠す」ということを言い始めました。その意味は「経済的に豊かになって、お金を払う(与える)ことでいろいろな問題を解決しようとする風潮が、子ども(若者)の欠点(問題点)を隠してしまう」ということです。

 最近の子どもたちはお金持ちになりました。それは所得が増加した親や祖父母が子どもたちに「金を与えている」からにほかなりません。少子化により数の減った子どもに、親と祖父母が多量の愛情を注ぎ込むようになってもうかなりの年月がたちました。そして、その愛情の証しが「お金をかけること」「お金を与えること」で代替されることが多くなり、それがあたりまえの風潮になっている様子が見られます。「お金の量が愛情の量の指標になる」という風潮は危険な兆候ではないでしょうか。

 昔、まだ社会全体が貧しく、子どもの数も多かったころにはなかった子どもたちの問題が最近多くなっています。ショッキングな事件もしばしば起こるようになりました。これらの問題を見ると、関係している大人たちもお金持ち(小金持ち程度かもしれませんが)になって、かなり劣化してきている節も見受けられます。

 事件などの陰には、小金持ちになって劣化しつつある大人たちが、子どもに愛情代わりのお金を注ぎ込むことによって、さらに子どもが劣化するという悪循環が起こっているかのような関係がうかがえます。ちょっとお金があって、そのお金でいろいろな問題を解決しているという行為が、本来あるべき赤裸々な親子関係を隠してしまい、問題を放置し、先送りするということになってしまっているようです。

 確かに赤裸々な親子関係を直視することは、居心地悪く、抵抗もあるかもしれませんが、親も子も目に見える形で現実を認識する方が、問題の解決には近いのではないでしょうか。

 現在の社会(地域)には大きな問題、深刻な問題が身近にもたくさんあるのですから、それらを直視して親子で話し合い、それらを解決するためにはどうしたら良いかを考えるとおのずと連帯感が生まれてくると思います。もしお金が必要なら、それらのために使う方が役にたつでしょう。

 しばらく前に、祖父母が孫を溺(でき)愛することを賛美する「孫」という歌が流行しましたが、私の耳には幸せそうな表情の足元が危なっかしいように感じられました。

(上毛新聞 2003年2月8日掲載)