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前群馬町立図書館長 大澤 晃さん(群馬町中里)

【略歴】高商から国学院大学。桐高、前工、前女とめぐり、前南で定年。群馬町立図書館の初代館長として、七星霜、その運営にたずさわる。現在は町の文学講座(古典と現代文)の講師。

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◎真実見抜く力を養おう

 一月の末、誘われて新年会のパーティーに出た。余興にはビンゴゲーム。飛び入りもあって、景品が不足、ジャンケンで決着をつけることに相成る。

 このジャンケンの三すくみを、ハサミは国民、カミは政治家、イシは官僚と当てはめていたのを、何かで読んだことを思い出した。

 国民は政治家を選べるが、「お上(かみ)」には弱い。政治家は選挙民には頭を下げるが、官僚には強そうだ。そして、官僚は政治家には弱いが、公僕のはずなのに、国民には強く出る時もある。さらに「業」が加わり、変に捩(ねじ)れることもある。

 われわれは、「総中流意識」という言葉に惑わされることなく、この三すくみのバランスを考えて、ハサミを研がなくてはならない。その作業は情報の収集から始まる。「知は力なり」を権力者は知る故に、情報の操作を通して、真実を知ろうとする者の目や耳を覆うこともある。

 悪名高いのが中国を統一した秦の始皇帝の焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)。自分の政治を批判する書物を焼き捨て、儒学者数百人を生き埋めにし、言論や思想を弾圧したことはあまりにも有名。しかし、二千二百年も前のことを持ち出さなくても、近くにヒトラーがいた。

 昨年秋のテレビでも放映されたが、一九三三年に政権を取った彼はナチス学生同盟を利用して、自分にとって好ましくない書物を、ベルリンをはじめ、大学都市の街頭で焼かせ、公共図書館からも、それらの書物を撤去させたことを忘れてはならない。

 また「知らしむべからず」の例として、第二次世界大戦の予行演習といわれたスペイン内戦についての日本政府の対応を挙げることができる。

 一九三六年、人民戦線の政府軍と、ドイツ、イタリアの支援を受けたフランコ将軍派との内戦が始まる。五十カ国に及ぶ若者や知識人たちは銃をとって政府軍を支援。しかし、彼らについては、一行たりとも日本の新聞は報道することはなかったと、石垣綾子(評論家)が『オリーブの墓標』に書いていたのを記憶している(この内戦に参加したヘミングウェーの『誰(た)が為に鐘は鳴る』は映画化もされた)。

 それに加えて日本では、軍部による言論の弾圧と情報操作を挙げることができる。

 太平洋戦争中の「大本営発表」を苦々しく思い起こす人もいるはず。欺かれた経験を持つ人は、自戒を込めて、その事実を若い人々に伝えてゆく義務があると思う。

 チェコの文学者、ミラン・クンデラは『笑いと忘却の書』の中で「権力に対する人間の闘いとは、忘却に対する記憶の闘いにほかならない」と警告している。

 洪水のように押し寄せてくる情報に左右されることなく、真実を見抜く力を養うことが大切である。

 限りない自由の世界に心を遊ばせてくれるのも読書。しかし、また、意図的にかかわってくるものを避け、現代的な課題に立ち向かわせるのも読書の力だと思う。

(上毛新聞 2003年2月12日掲載)