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東京医科大学病院集中治療室長 小沢 拓郎さん(東京都港区高輪)

【略歴】前橋高、東京医科大学卒。同大学院修士課程修了。同大学付属霞ヶ浦病院、同大学八王子医療センター麻酔科助手を経て、2001年4月から現職。




◎諦めずに追いかけよう

 テレビのニュースでたまたま前橋市の成人式が放映されているのを見た。晴れ着を身にまとった若者たちが非常にまぶしく、またうらやましくも見えてしまう。私事になるが、僕は自分の成人式に出なかった。自分が二十歳の時、その日は国公立大学受験の最初のハードルである共通一次試験(現在の大学入試センター試験)受験の前日であったからである。自宅には招待状が郵送されていたが、とても成人式に参加する気分になれず、焦燥感のなかで机に向かっていたことを覚えている。

 それから二十一年の歳月が流れたが、なぜかこの時期になると今でも妙に落ち着かなくなり、そわそわしてしまう自分に気付く。おそらく大学受験から始まり、毎年繰り返す進級試験、そして最後の卒業試験、国家試験と十代後半からの約十年間、成人式が過ぎると試験勉強に追われていたせいかと思っている。周りの人間たちは「それは立派なトラウマだよ」と笑うが、一生続く条件反射と諦(あきら)めていた。

 確かに試験勉強に追われていたころは、こんな暮らしはもう嫌だ、もっと楽しい生活を送りたい、と憂鬱(うつ)な気分に陥ることもまれではなかった。そして生まれて初めて現実の厳しさを知り、また挫折と絶望に目の前が暗くなる思いを経験した時代でもあった。しかし当時の自分には今の自分よりも何倍も未来が広がり、また夢を信じて苦境に立ち向かう力も十分にあった気がする。それ故に毎年のこの時期の落ち着かぬ気持ちは決してトラウマではなく、未来も夢も小さくまとめ、ぬるま湯で満足しようとする今の自分に対する焦りと警鐘なのかもしれないと思い始めている。

 不況が続き明るい話題の少ないこの時代に、一体どんな夢を持ってゆけるのだろうか、とさめてしまっている人も少なくないかもしれない。夢を実現するために困難に立ち向かう力は年を重ねるとともに減衰してゆくことを実感しているが、若い時にこそ挑戦できることも多いはずで、諦めずに夢を追いかけてほしいと願っている。

 自分自身、“Where there is a will,there is a way.(意志あるところに道は必ず開ける)”という言葉を信じて、何とかここまでやってこられた気がする。目の前の道が思うものではなくても、自分の夢を決して諦めなければきっとその先で必ず理想の道と交わるはずである。今年は昔の自分に負けぬよう、新しい夢を探して、その実現のために困難に立ち向かうことのできる一年にしたいと思う。

 最近感銘を受けた言葉を最後に紹介したい。その半生が映画化され話題になった大リーグの“三十五歳ルーキー”、ジム・モリスがインタビューで語っていた言葉である。「ファーストチャンスは挫折することが多いものですが、夢を追いかけ続けていればセカンドチャンスがやってくるし、実現できる」

(上毛新聞 2003年2月16日掲載)