視点 オピニオン21
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塾講師 金庭 敬純さん(富岡市曽木)

【略歴】中央大卒。弁護士を目指して司法試験を受けながら、1980年ごろから高崎、富岡など各地で塾講師を務める。初期は高校生、近年は小中学生を指導。NPOあおくら(下仁田)会員。

「愛国心」教育



◎個人の尊厳に至上価値

 私は以前、この紙面を借りて愛国心教育について一言した(一月七日付)。字数の制約もあり、また、まことに舌足らずで、十分論じ尽くすことができなかったのではないかと思い、再度紙面を汚す機会を与えられたので、いささか敷衍(ふえん)して論じたいと思う。

 先般、私はニュースで、朝鮮人の夫と帰国事業の一環として朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)へ渡った日本人妻が、中国国内で潜伏しており、日本へ帰国したいとの希望を表明している姿を見た。夫とともに北朝鮮へ渡ったもののわずかにして夫は政治犯のかどで北朝鮮当局に逮捕連行され夫の行方知れずのまま、北朝鮮北部の寒村へ強制連行されかの地において強制移住を強いられるという状況に立ち至ったこと。わずかばかりの畑でトウモロコシを栽培し、これを主食とし奥深い山間部へ入り、主に薪を拾い集め、これを商品として売却処分し、わずかばかりの金員を稼ぐことによりどうにかこうにか日々の生活を送り二十有余年。しかしながら寄る年波は、この老婦人の健脚を奪い、先々生活の続けることの不可能を自ら悟り、いまだ足腰の丈夫な今のうちに脱北して北朝鮮を離れないと日本の地を踏む機会を逸すると判断し、中国へ脱出したとのこと。中国はこのような人たちを情け容赦なく摘発するとのことゆえ、いつ摘発発見逮捕され北朝鮮へ送還されるのか日々戦々恐々として生活を送っているありさまとのこと。そこで知人を介して日本国外務省へ保護を求めたものの返答はいまだ来ずとのこと、一年のうち二、三回しか食したことのない米をカレーライスとして食し、望郷の念が一層高まったのか、自分の親不孝をわび、今は亡き父母の墓参をしきりと希望して、切々と訴える姿は、誠に現代の貧窮問答歌である。

 今溺(おぼ)れている者がいるとしよう。救助しようにも容易に救助しえない。そこで公的機関に救済を求めた。その部署へ行くと、「ここはうちの管轄ではありません」。そこで他の部署へ行くと、「申請書類に必要事項を書いてください。上司の決裁を仰いでから返答します」。これでは助かる命も助からない。

 華麗なる檜(ひのき)舞台に立ち並み居る列国と互角に渡り外交交渉にらつ腕を振るう。下交渉では「会議は踊る、されど進まず」。外務省の使命はここにあるのか。

 海外で不幸に見舞われた日本人は、どの国の領事館へ駆け込むべきか。

 長々と論じたが、結論を急ごう、愛国心とは国家への忠誠ではない。憲法への忠誠である。憲法は「個人の尊厳」に至上価値を置く。そうであれば、国民の人権が侵害ないし侵害の急迫性があるとき、国家は全力をあげてその者の救済に乗り出す。一刻の猶予もならない。

 「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう」と努めるべき。公務員の憲法尊重擁護義務の第一義はここにある。まさに愛国心の発露だと私は思う。

(上毛新聞 2003年2月23日掲載)