視点 オピニオン21
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NPO法人シリモな群れ事務長 細谷 潔さん(玉村町福島)

【略歴】東京都出身。文教大卒。環境カウンセラー。幼児体育指導が専門。2001年、NPO法人を設立、職業や性、年齢、能力などの垣根を越えて、シリモ(アイヌ語・穏やかな)に群れている。

緩やかな時間



◎自然に合わせ体験活動

 若王子(やこじ)の森での活動は、たぶん一般の自然体験活動と違うと思います。今までは活動を企画するにあたり、始まりと終わりの時間を設定して時間内に終わるのを良しとしていました。おのずと活動内容も時間に合わせてですから、パッパッと準備してサッサッとやり終えてしまいます。まるで授業をしているかのよう。目的も時間もハッキリしていた方がスタッフも参加者も都合がいいという理由です。この森の持ち主の山田知足さんに何回も言われた「向こうの世界(自然)に合わせて…」がきっかけで随分変わりました。暑い日差しもあれば雨も降ります。魚が悠々と泳いでいる時があれば姿を隠している時も、焚(た)き火の火つきが良い時もあれば悪い時もあります。参加する子どもたちも活動よりも森を駆け回りたい、池に釣り糸を垂れたい、木陰で休んでそよ風を感じたい時があるのです。当たり前ですが、恥ずかしながら最近やっと気づきました。

 そして去年十一月上旬、焼き物(土器)作りを始めました。焼き物用の粘土は購入せず、寒風吹き荒れる中で若王子の地面(元田んぼ)を大人の背丈ほどの深さを掘りました。半日程度で終わるだろうと思っていましたが、灰色の粘土を樽(たる)に入れて水で溶かして沈殿させるのに一日かかりました。冷たい水で手はかじかみ、服は泥だらけ。でも焚き火で暖をとりながら焼いた里芋やマシュマロの味は格別でした。十一月下旬には沈殿した粘土に荒木田(あらきだ)を混ぜました。野焼きの時に粘土の粒が細かすぎると割れやすいからです。でも土をこねる感触を楽しむのは最初だけ、すぐに二の腕がパンパンに。

 苦労して作った粘土を作品にしたのは雪が降った十二月の中旬でした。皆思い思いに土鈴や器、皿、埴輪(はにわ)や魚を作り上げました。昼には焚き火を囲んでスイトンを作り、餅(もち)を焼いて冷えた体を温めながら…。冬場はいつも焚き火が登場。鉈(なた)での薪(まき)割りは子どもたちがします。周囲への注意と道具の扱いを覚えた子どもたちにはたくましさを感じます。それは「道具は悪さしない、するのは人間だ!」という山田さんの思いがあるからです。本気で教え、本気で叱(しか)り、本気で褒めることは心に染みてしまいます。

 一日も早く野焼きしたい気持ちを抑えて作品をよく乾燥させ、一月上旬に焼き上げました。籾(もみ)殻でおき火を作り、その上に作品を載せて薪を山盛りにしての野焼きです。朝十時から夕方四時までじっくりと。灰の中から、赤く焼けた土器が出現した時には感動さえ覚え、また古代の人々は失敗と工夫の連続で文化を育(はぐく)んできた延長上に私たちが生きていると感じました(作品は若王子の森HPにアップしてありますのでぜひご覧ください)。ちょうど新年明けなので皆で餅もつきました。「同じ釜(かま)のメシを食う」は諺(ことわざ)どおりで、集まる仲間が世代も出身も能力も超えた仲でいられるゆえんとなっています。

 このように今回の焼き物は三カ月かけました。身近にあるもので材料も買わず、工程をはしょらずに最初から最後まで、ただひたすら緩やかな時間の中で活動しました。速さと確かさと安全を求める時代ですが、手間がかかり、失敗もあり、汚れ、汗したこと自体が私たちの忘れることのない原体験になります。そして玉村町にすばらしい原体験ができる「若王子の森」があることを誇りに思います。

(上毛新聞 2003年2月24日掲載)