視点 オピニオン21
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関東学園大経済学部経営学科教授 入江 省熙さん(太田市飯塚町)

【略歴】韓国ソウル延世大卒。北海道大大学院経済学研究科経営学専攻博士課程修了。マーケティングを専門に、国内や米国、韓国の市場を観察、ユニークな視点で解明している。

初心忘るべからず



◎顧客は良いものに反応

 今日のように不況が長引くと、気にしなければいけないことと気にしなくても良いことの区別がはっきりしなくなってしまうことがしばしば起きる。つまり、環境に左右されてしまうのである。その環境は、今日のように新聞を読んでも、テレビをつけても、雑誌を手にとってもいずれも“長引く平成不況”という見出しを見つけることが簡単にできる。株価や円相場、経済の状況を示す各データはこれもまた、厳しさをあらわにしているものがほとんどである。しかし、庶民の素朴な疑問がある。企業の倒産やリストラは身近なところでも起きてはいるが、バブルのころあれだけ出回っていた現金がいったいみんなどこに消えてしまったのだろう? しかし、不況とはいえ毎年ヒット商品は生まれているし、業績をさらに伸ばしている企業も実際にたくさん存在する。

 わが街である太田市の商業部門に関するデータ(太田商工会議所管内景況調査分析)は、小売業、卸売業、サービス業、飲食業がその対象となっている。近年、その調査結果は非常に厳しくなる一方であるといえる。実際太田の街を歩いてみると、納得するものが結構ある。それは客が入っている店と入っていない店の違いである。それにはさまざまな理由があると思われるが、共通にいえることは気がつくべきものに気をつけている店と気がつかなくても良いところに気をとられている店があるということである。これによって客入りはある程度影響されているように思える。このことは太田に限っていえることではないけど…。

 では、実際気がつくべきものと気にしなくても良いものは何だろう。それをはっきりするためには環境分析を行い、事業の定義をきちんと再度確認する必要があるといえる。誰もが事業を始めるときこの事業は失敗するとは思っていない。成功するための必要要件を満たしたそれぞれの事業計画をもとに開業したはずである。しかし、市場での環境の変化に気をとられ開業時における初心を忘れているのではないだろか。心理学的にいえば普通に正常な人でも複数の人から“顔色が悪いね”、“どこか体の具合でも悪いの”と何度もいわれると徐々に体調を崩してしまうのである。

 バブル時代のように黙っていても市場が自然と企業に活気をもたらしてくれる今日ではない。元気な各事業所が市場を元気づけていかなければならない時代であるといえる。

 夢と希望に満ちた開業当時の初心に早く気づくべきである。また、心理的な圧迫をさらに加重してくる世間の諸情報は選別しながら気がつくべきである。意識レベルが下がってしまうとその分判断力も低下する。良いものには顧客は必ず反応するものであると確信をもとう。

(上毛新聞 2003年3月4日掲載)