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利根沼田森林管理署長 井上 康之さん(沼田市鍛冶町)

【略歴】九州大学農学部卒。1987年、林野庁に入庁。北海道夕張営林署担当区主任、JICA専門家としてタイ王室林野局勤務、環境庁自然保護局生物多様性条約担当などを歴任。

武尊山エリア



◎国民参加のモデル地に

 前回のこの欄(一月十八日付)で「国民参加の森づくり」についてご紹介した。しかし、どこでこの活動ができるのだろう、どこに問い合わせればアドバイスをしてもらえるのだろう、とお考えの方もいらっしゃるのではないかと思う。そこで「武尊山エリア」を活動場所として提案するとともに、利根沼田の森林づくりを支援する組織が立ちあがりつつあることをご紹介したい。

 利根沼田の地図を広げると、「奥利根のヘソ」のごとく、武尊山頂が地図のど真ん中に位置していることがわかる。武尊山は、古くから霊峰として信仰され、地元の人々に親しまれてきた。武尊神社という名前の神社は、山を取り囲むように十九社あり、明治時代には四十八社もあったという。

 昭和四十六年には全国に先駆けて「自然休養林」に指定され、ブナ林、ミズバショウなど豊かな自然を生かして、登山、自然観察に活用されてきた。中腹部の起伏のある傾斜面には十三カ所のスキー場が設置され、ふもとにはスギ、カラマツの人工林が広がっている。

 この広大なフィールドをベースに、現在のニーズに沿った活用方法をいま一度考えてみようと、昨年八月、「武尊山エリア整備・活性化推進委員会」が発足した。武尊山を共有する四カ市町村長をはじめ、行政からは林業、観光、教育関係者、そして武尊山をベースに活動している有識者の方々にお集まりいただいた。総勢三十九人というそうそうたるメンバーである。

 通常、○○委員会というと、行政の方ですべてお膳(ぜん)立てが整っていて、活動や予算をシャンシャンとご了解いただく場である場合が多い。ところが、この委員会はそうではない。委員にはボランティアベースでの出席をお願いしており、事務局である森林管理署が活動予算を準備しているわけではない。委員の方々の武尊山にかける思いを「ビジョン」の形で取りまとめ、それぞれが実施主体となり、お互いに協力し合いながらできるところから進めていくという考えをベースにしている。

 ほとんどの委員の出席のもとで、これまで四回の議論を重ねてきた。ある委員は、武尊山の文化を維持・伝達するために昔の生活道を復活させたいという。また、武尊山を教育のフィールドとして活用するため、この原点である遊びや技を発掘していきたいという委員もいる。

 旧道は武尊山頂を中心におおむね半径十キロの円周沿いに走っていることがわかった。これらの旧道沿いには今なお、道祖神、馬の水飲み場、伝説などが残っているという。道をうまくつなげば、全国植樹祭会場となった「21世紀の森」、市町村が管理するキャンプ場、ブナ美林を有する玉原高原、河川を生かしたふれあい広場、ミズバショウの湿原などを結ぶことができる。道周辺の森林がボランティアの手で整備されれば、歩いて心地よく、PR効果もある。道沿いに巨木、奇岩、木登りの木などを見つけ、自然のアトラクションとして紹介するのも良い。夢はどんどん膨らんでいく。

 一方で、下流域(都会)の意見を取り込まなければ、自己満足の世界でしかないという辛口の意見もいただいている。

 群馬県では、「上下流連携の森林づくり」委員会で、利根川の水を蓄える上流域の森林を下流域住民と一体となって整備する手法について検討してきた。ここでは、「利根川上下流連携支援センター」を新年度早々に立ち上げ、森林を活用したいという方々にフィールド、指導者、教材や道具の手当てなどをすることとしている。同じことを別々にやっても仕方ない。活動支援の核を一つにまとめようという合意が整いつつある。武尊山のビジョンは、支援センターとの連携により実施に移される方向が見えてきた。

 現在これらの整理は大詰めにさしかかっている。数カ月後には、武尊山エリアを含む利根沼田の森林は、名実ともに国民参加の森づくりのモデル地としての一歩を歩み出すこととなろう。大いにご期待いただきたい。

(上毛新聞 2003年3月7日掲載)