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県高齢者生活協同組合専務理事 大塚 肇さん(前橋市広瀬町)

【略歴】中央大法学部卒。医療事務会社社長、県高齢者生活協同組合設立準備会事務局長を経て2001年、組合設立と同時に専務理事に。日本労働者協同組合連合会センター事業団群馬事業所長も務める。

社会経済の再生



◎非営利組織も担い手に

 前世紀の経済発展は多くの富を生み出し、大きな政府がその再分配を実現しました。それらは現在高齢の方々の勤勉な労働と優秀な官僚による行政の成果です。ところが、高齢者に子や孫の世代が今よりも豊かになっていると思うかと聞くと、そうは思わないと答える方が圧倒的です。時を経れば人間の知恵が積み重ねられ、技術が進展し、生産力が高まり、労働時間が減って、生活に夢や希望があふれるはずなのにそうならないと思うのはなぜでしょうか。

 今、日本の社会経済は出口の見えない不況、大量失業、少子高齢化、犯罪の凶悪化など深刻な課題でいっぱいです。それはまた従来のやり方が行き詰まっており、時代が大きな転換点を迎えていることを意味しています。

 その処方箋(せん)を規制緩和、民営化、グローバル化、小さな政府に求める意見が少なくありません。市場競争原理を徹底し、国際競争力の高い大企業を育てることで経済発展を図るという考えです。国民は痛みに耐え、公を頼らず自己の責任で生活することが必要となります。

 しかし競争原理、自己責任を徹底するということは一部の勝者と多くの敗者を生み出します。そして社会保障の切り下げと消費税の税率アップが優勝劣敗のけじめをつけます。敗者復活は容易ではありません。努力できなかったからとはいえ不満が残ります。将来の不安も消せません。これでは消費意欲も萎(な)え、市場経済は機能しなくなるでしょう。また大量生産大量消費は飢餓を解消しましたが、営利本位の企業活動により食の安全への信頼を失いました。物による豊かさを実現しましたが、大量廃棄により環境に回復不能な破壊をもたらしました。これを続けていて生活の質は高まりますか。利便性や効率だけでなく安心やゆとりが欲しいものです。この処方箋では夢や希望が遠のくのもうなずけます。

 そもそも人間は自己の向上心とともに、他人と共感し連帯し合う本性をもっています。他人に優しくされると、自分が大事にされていることを感じます。それが繰り返されて他人に優しくし大事にし合う関係が育(はぐく)まれます。幸せや喜びは自分だけで完結せず他人とともにつくられます。これこそ人間のDNAに深く刻まれた種の本質です。

 とすれば社会経済の再生は地球規模での弱肉強食で勝ち残る方向ではなく、地域で互いに安心して暮らし続けていける方向や社会連帯を推進する方向で取り組むべきです。また物の豊かさだけにとらわれず、人間そのものの成長発展を社会資本とする経済を目指すべきです。例えば、地産地消の地域循環型産業を起業したり、介護や育児の就労を創出したり、IT技術も瞬時の投機的利益のためでなく、情報交換の双方向性や多様性を可能にして住民の自立、参加、協同を豊かにするために活用したり、中山間地の農業を都市住民が支援したりすることなどが考えられます。そこでは生産やサービスの提供の仕方、働き方、消費の仕方はもちろん、人生の在り方そのものがもっと人間の顔をしたものになるはずです。

 この方向に時代を転換させるうえで鍵となるのは担い手です。従来の官と企業だけでは不十分です。第三の担い手としてNPOや協同組合などの非営利組織を本格的に育ててみるのはどうでしょうか。それらは地域を基礎に住民の主体的な参加と協同で社会貢献性の高い福祉、環境、食などの事業を運営しています。公益性の点からすると、官主導による公共性に対し、住民主導による新しい公共性を創造するものともいえます。

 ところで未来は若者のものですが、未来を切り開くロマンだったら高齢者にも認められます。むしろ自由で知恵を持つ高齢者だからこそできる固有の役割があります。高齢者のみなさん、時代の転換期に社会経済の人間的再生というロマンに挑戦してみませんか。

(上毛新聞 2003年3月7日掲載)