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県環境アドバイザー 中村 文彦さん(吉井町本郷)

【略歴】日本大中退。ホテル専門学校を卒業後、東京都内の都市ホテルに勤務。1994年、吉井町にIターンして無農薬、無化学肥料による有機農業を実践中。環境問題などに関する講演も行っている。

昔ながらの食生活



◎食の本質を見直そう

 大手ハンバーガーチェーンの価格がまた改定されました。街には、安さを看板にした外食産業の店が建ち並び、群馬に限らずどこの街道筋もみな同じような景観に見えるのは私だけでしょうか。重い鞄(かばん)を背負い、厳しい受験戦争へ向けて塾通いの日々に追われ、深夜とも思われる時間にコンビニで買い食いに走る子どもたち、そして、食事を作らなくなった親たち。こんな光景がごく普通になってしまったのは、いったい何が原因なのでしょう。

 図書館で『群馬の食事』という本を見つけました。群馬のいろいろな地域での郷土の食べ物が絵や写真とともに、その歴史の背景をも交えて紹介されていました。今でも、群馬の郷土食といえば、おきりこみや焼きまんじゅう、こんにゃくなど全国にも知れわたる物も多いですね。そんな資料を見てみると、昔ながらの食生活には、その土地の人々が創意工夫を凝らして食材をいろいろな形で楽しんでいたことが手に取るように感じられます。

 人に限らず動物が生きていくためには絶対に必要なことが三つあると思います。それは、空気と水と食物ではないでしょうか。これ以外の物は、例え屋根がなかろうが、服がなかろうが、絶対に必要とは言えません。その食を楽しむことは決して悪戯でも義務でもなく、人の欲する素直な感情だと思いますし、おいしいものを食べることは至福の時であります。

 かつてのグルメブームを推奨しているのではなく、人が本来楽しんできた食の本質を、もう一度見直してみてはどうかと思うのです。“おきりこみ”はおいしいものではありませんか。“おきりこみ”がこの群馬に生まれた歴史の背景なども大切にしながら、郷土愛などと事大主義的なことは言わずに、人から人へと伝わる本物の昔ながらの食の再発見、そしてそれを伝えていくことは大切なことだと思うのです。

 私は畑を持ち、細々とではありますが、自作農を楽しんでいます。生まれ育った土地を離れて土とともに暮らそうと思い決心をしたのは、うまいものを、本物の命の息吹を食べたかったからです。そして、それを実現させるために、最終的な判断として自分で作ることを選んだわけです。五十年前にはなかった除草剤、化学肥料、殺虫剤は使っていません。その結果なんとも甘くおいしい野菜、命の息吹を感じる食べ物を手に入れることができました。そして、今の食の現状がとても不自然であまりに危険なことも知り、愕(がく)然としたのです。

 わが家では、味噌(みそ)は手前味噌、豆腐は手作り、野菜は自家栽培、地元で作られた物をごく普通に食べています。それが驚くほどおいしいことに日々至福を感じています。化学調味料や添加物まみれで、地球の裏側から運んだ食べ物ではなく、何よりおいしい本物の食を昔ながらの食べ方で、先人の知恵を感じながら味わいましょう。

 食べることは命の本質であり、本物だった昔ながらの食生活が貧しいのか豊かなのかを、もう一度、考えてみませんか。

(上毛新聞 2003年3月25日掲載)