視点 オピニオン21
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県環境アドバイザー 中村 文彦さん(吉井町本郷)

【略歴】日本大中退。ホテル専門学校を卒業後、東京都内の都市ホテルに勤務。1994年、吉井町にIターンして無農薬、無化学肥料による有機農業を実践中。環境問題などに関する講演も行っている。

食卓の現状



◎いのちの息吹に春満喫

 この冬は長かった。畑の作物も生育が悪くて、わが家でも野菜がまかなえず買って食べたりしました。四月になり、春爛漫(らんまん)の季節を迎えると、毎年感じることがあります。

 春の息吹というのでしょうか、長い冬の間、硬く閉ざしていた木々や草花の芽は一斉に芽吹き、それは私たちの目ばかりでなく、舌をも楽しませてくれるのです。セリ、タラノメ、ギボウシ、ノビル、ワラビ、そしてタケノコ。春は本当においしいものでいっぱいです。おいしいものを求めてきた私には、この春の息吹を食することに、大きな感動を覚えました。

 かたや、スーパーなどで売られているものといえば、年中同じものが出まわり、季節を感じることが難しくなりました。良くいえば、世界からいろいろなものが集まり、見るからに豊かです。

 でも、よくよく考えてみると、お金の力で世界中からかき集めなければ食べものが無いのだとすれば、この国は本当に豊かなのだろうかと思えてしまうのです。

 食という視点でとらえてみると、そういうことが自然と見えてきてしまいました。いったい、私たちの食卓の現状はどうなっているのでしょう。

 統計によれば、わが国の食糧自給率はカロリー換算で40%弱、穀物換算では28%しかないのです。この自給率の低さは世界一だそうで、ちまたに並んでいる豊富な食べものも、有事になればたちまち消えていくのです。世界では、一日に三万人とも、五万人ともいわれる人々が餓死をしているそうですが、私たちの国で、一日に食べ残しや消費期限切れで廃棄される食べ物は消費量の実に20%近くになるのだそうです。単純に考えても、一日に二千万食にもなる食べものが捨てられていることになる。世界では餓死している人々が日々何万人もいるのに…。

 資本主義経済とはそういうものだと教えられてきました。学校に入れば、誰もが競争相手で優劣をつけられる。そこに二人いるだけで勝ちと負けに分けられる。良く考えてみると、とても不思議な感じがするのです。本来、昔から人々は助け合って暮らしてきたと思うのです。

 机を並べた友人も競争相手ととらえれば、そこに助け合う気持ちがわいてくるでしょうか。みんなが同じである必要はないと思いますが、奪い合いの中では不幸が生れるだけではないでしょうか。

 いのちの息吹を感じながら、今年も春を満喫させてもらいました。戦争や飢餓といった世界の現状の中で、私たちは何と幸せなことでしょう。草花は、どんなに冬が厳しかろうとも、春になれば毎年同じように芽吹き、花をつけ、いのちの営みを繰り返します。その、けなげさやたくましさをどうぞ感じてみてください。庭先や畔(あぜ)からさえも、私たちも自然の一部であり、すべての生きものは互いに持ちつ持たれつ、助け合いながら生きていることに感動すると思うのです。

 戦争も環境破壊もすべては私たちの生活の延長ではないでしょうか。あらためて、いのちの本質を思い、無駄な競争や奪い合いはやめて、生きることの幸せを味わってみようではありませんか。

(上毛新聞 2003年4月28日掲載)