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キリンビール群馬支社市場開発担当課長代理
戸塚 久仁子さん
(高崎市宮原町)

【略歴】高崎市生まれ。キリンビール高崎工場入社。1990年以降、社会貢献を念頭に地域の交流イベントを展開。2000年に高崎ビール工場移転後から現職。支社創設以来、初の女性営業職。

夢を広げる研究



◎地道な努力が財産生む

 五月の母の日は、老若男女を問わず、それぞれの思いで迎えられるという意味の初夏の風物詩といえると思います。この母の日の贈り物として最も多いものがカーネーションではないでしょうか。最近のマーケットで花に限らずあらゆるものを購入する際に、「こういう商品が欲しい」と望む以上に潜在ニーズまで取り込んだ商品を見て、各分野での開発努力や成果を感じます。もとは将来百億人といわれる人口への食糧危機問題からスタートした遺伝子組み替えも一九七〇年代に開発されたバイオテクノロジーの技術によって多くの産業分野での改良技術が進んでいます。

 県内にキリンビールで全国唯一の医薬研究生産拠点があり、たくさんの研究員が最先端の研究に日夜取り組んでいるので、その苦労は折に触れ耳にします。それにも増して「世界にある病気の約四分の三はまだ治療法がないといわれる。取り組んでいる新薬の開発が成功したらたくさんの人が助かり、社会に貢献できる」と研究員は目を輝かせて話しています。

 つい先ごろ、日本を含む六カ国が共同で生命の設計図といわれるゲノムの遺伝暗号を読みきったというニュースが話題になりました。「この暗号解析で不老不死で若さを保てる新薬が開発されるのかしら?」ともとより科学に疎く無知な考えで問うと、今回の研究は探し求めていた膨大な象形文字遺跡が発見されたが、その文字の意味や内容はまだ分からず、現在も約二十八億という気の遠くなるような文字数の遺伝暗号の解読に世界中の研究者が日夜努力を重ねている、という説明でした。

 顔貌(ぼう)、性質、果ては振るわない学業成績や運動神経など人より劣ることは親から受け継いだ遺伝的な素因と自身の努力不足への言い訳を考え、納得していた学生時代を思い出しました。親から受け継ぐ病気や体質などの特徴の半分は遺伝的な素因によるが、残りの半分は後天的に変わってくる。たとえ両親ともに身長が高くても栄養状態が悪ければその子供の背は伸びないので、環境がかなりの影響力をもつといわれています。同様にアルコール代謝能力も日本人の40%は生まれながらアルコールの解毒酵素の働きが不完全で飲酒後に顔が赤くなる人が多いといわれています。この酵素を全く持たない人が世間でいう下戸といわれる嗜(し)好の部類に属する人ですが、遺伝子を調整して酵素を活発に働かせてはどうか等…研究が進むとさまざまな欲求が出てくると思いますが、倫理的に十分配慮したルールづくりは社会全体で重要なことになってくると思います。

 以前、男女産み分けというのが話題になったころにある産婦人科の医師に「生命誕生の尊厳を冒すことになるし、男女のバランスを欠くことになるのでは」という問いかけに「産み分けを望んだ人たちの数は意図した操作をすることなく不思議と男女同数になる。これぞ生命の神秘」と語っていた記載文が印象深く記憶に残っています。

 恵まれた時代には何をやっていいか分からないことが多いが、本気でやりたいことを見つけ、失敗を繰り返しながらもチャレンジし続ける。人の役に立つことが学問のみならずすべての目的であり、地道にコツコツと努力をしていくことが代え難い財産を生むということはすべてに共通することだと思います。五月十八日に開催するキリンフェスティバル会場では研究員が「やさしいサイエンス」というイベントを未来を担う地域の子供たちに向けて開催します。

(上毛新聞 2003年5月10日掲載)