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東洋大学国際地域学部教授・学部長 長濱 元さん(東京都西東京市住吉町)

【略歴】北海道旭川市出身、北海道大卒。文部省、経企庁、信州大などで行政、調査研究、教育に携わる。1997年より東洋大教授。専攻は社会学と政策研究。研究課題は科学教育システムの国際比較。

内と外の異文化交流



◎心構えと準備が必要

 東洋大学国際地域学部には、大学院生も合わせると百八十人ほどの留学生がいて、日本人学生や地元の住民との間で日常的に異文化交流が行われています。しかし、それらの内容や効果を具体的に把握することはなかなか難しいものです。

 大学には異文化交流を目的とするサークルもありますし、地元板倉町や館林市の国際交流協会・文化活動団体の協力で留学生が小学生と交流したり、「茶道」や「和服の着付け」などの教室を開いたりしています。これらの活動は、異文化交流のために何らかの役に立っていることは確かなのですが、その効果は「推し量る」以外にはないというのが現状と言えます。ひとつの問題点は、外面的な形の上での交流にとどまることが多く、内面的な交流に深化するためには少し工夫と努力が必要なことです。

 一方で、日本人学生が海外へ出かけていく機会も多くなっています。大学や学部が主催する語学研修や留学はもちろんのこと、私費での語学研修や留学を行う学生も少なくありません。中には入学と同時に海外体験を目的として、半年または一年休学する学生もいます。それらの成果を冷静に見ますと、確かに多くの海外体験者は海外での異文化体験を次のステップに生かす栄養にしています。しかし、少数ですが帰国後その体験を生かすことができないでいる学生も見受けられます。入学直後に海外体験を大学での勉学に生かすべく海外に出かけた学生には、かえって自己を見失い帰国後大学生活に復帰できなかった学生も一人ならずいました。

 結論を先に言いますと、自分自身の内面的な「文化」が確立していない段階で異文化交流を体験しても、外面的な(形だけの)交流に終わってしまい、内面的な(深い)交流には深化しないということです。準備不足の体験はかえって害になることもあるのです。

 日常的な異文化交流でも、本格的な海外体験でも学生の様子を見ていると、それなりの心構えと準備が必要であり、単に体験してみれば何とかなる、友達が行くから行ってみようでは成果が乏しいようです。だからといって初歩的・外面的な異文化交流が不必要なわけではなく、小学生や一般住民の方にとってはそここそが入り口であり、関心が深まればさらに先に進めば良いわけです。それが親善交流を深化させる基本です。

 大学の学生にとっては、「問題意識」が要と言えるようです。留学生の交流でも親善が目的のものと勉強が目的なものとでは、当然本人の意気込みが違います。日本人学生の場合には、最初から関心の薄い者もいます。また、国際的な仕事や貢献を目標とする者にも意識の濃淡があります。国の内外で地域開発や地域の貢献を目指す人材を育成しようとしている私の学部では、大勢の留学生には日本の文化に、日本人学生には海外の文化に深い関心と理解を持ってもらおうとしています。そのためには、外面的な異文化交流から早く内面的な異文化交流に進むよう努力をしています。

 東毛地域には外国人住民も多く異文化交流に恵まれた地域です。われわれもこの地域の特長を生かして、住民の方々との交流の機会を増やし、外と内の交流を進めていきたいと考えています。

(上毛新聞 2003年5月17日掲載)