視点 オピニオン21
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県自然環境調査研究会員 松澤 篤さん(館林市富士原町)

【略歴】館林市出身。県立館林中学校、日本大学文理学部卒。東京大学理学部植物学教室留学。小・中学校で理科教師、小学校で校長を務める。現在、館林市環境審議委員、板倉町文化財調査委員。

自然に親しむ



◎まず植物の名を知ろう

 まだ春浅い野道を歩いて、日だまりに、オオイヌノフグリのコバルト色のかれんな花を見る度に、この花がいち早く私に春を告げてくれるような衝動にかられる。今、そこに踏みつけている野草にも厳しい風雪に耐えてかれんな花を咲かせ、懸命に生きる姿が見られる。

 ウオーキングで歩け歩けの健康のための散歩が今盛んである。野山のハイキングも盛んになった。それぞれ、目的があって結構なことである。私は一歩進めて、そこに見られる多くの野草、樹木にも目を向けて、それらの植物の名が分かったならば、それは今まで以上に野山を歩く楽しみがわき出ることと思う。

 よくいわれるが、日本人は山の景色、その素晴しさを遠くから眺めて味わうが、その林の中に一歩足を踏み入れて、そこに生きている野草、樹木一つ一つに触れて観賞することが少ない。西洋の人たちは林の中の植物に触れる楽しみを理解しているようだ。人間社会において初めての人とのお付き合いは、互いに名前を紹介し合って名前を知り、そして次第にその人の性格や趣味等いろいろなことを互いに理解しながら親しみがわくものである。

 私は本当に自然に親しむためには、植物の名前(和名)を知ることから始まるものと信じている。植物と友達になることである。それは昆虫の世界、野鳥の世界等でもいえることと思う。私は長年、児童、生徒の野外指導、近年は公民館活動等で中高年の方々と山野を歩いて多くの野草、樹木を観察しながら散歩を楽しんでいる。全く野草に関心を示さない人でも、一時間も歩くと野道に出現する移り変わる野草を見て次第に興味を示してくれるようになり、私も本当にうれしくなるのである。

 ここでは紙上での観察会で読者の皆さんと歩いて野草を覚えるこつ、どうしたら植物に親しみがわくか、一緒に試してみましょう。今日は近くの春の小川や土手に目を向けて、歩いてみましょう。土手には菜の花が咲き、黄色のジュウタンを敷いたかのよう。そう、それはセイヨウアブラナか、セイヨウカラシナのどちらかに入ります。原産地はヨーロッパで戦後各地に侵入した帰化植物ですね。土手にはセイヨウタンポポやエゾタンポポの小さな群落が見えます。

 その中にまじって赤い穂をつけたスイバ(スカンポ)が花盛り。のどが乾いたら、この茎の柔らかい部分をかじってみましょう。酸っぱい味がして、のどの乾きが忘れます。スイバとは酸っぱい葉の意味です。昔はスカンポといって、年配の方はよく知っています。ハルジョオンもまだつぼみで首を垂れています。茎を切ってみると、中がずいでつまっていますよ。ヒメジョオンは夏のころより咲き、茎を切ると中が竹のように中空なので見分けできます。ともに北アメリカの原産の帰化植物で、今ではすっかり日本の気候に適して日本の植物と肩を並べ、いや圧倒的に日本の植物を脅かしています。

 川の方へ下りてみましょう。セリが盛んに茂っています。山菜としては筆頭ですね。この生い茂っている様子が互いに競り合って生えているので、セリと名前がつけられたのです。紙上の観察会はこれで終わります。実は本物を見ていないので何ともいえませんが。その植物の名前の由来、人とのかかわり、自然環境の様子などが、ただ野道を散歩するよりも興味がわき、楽しみながら自然の姿が理解され親しみも増すものと思います。

(上毛新聞 2003年5月25日掲載)