視点 オピニオン21
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県環境アドバイザー 中村 文彦さん(吉井町本郷)

【略歴】日本大中退。ホテル専門学校を卒業後、東京都内の都市ホテルに勤務。1994年、吉井町にIターンして無農薬、無化学肥料による有機農業を実践中。環境問題などに関する講演も行っている。

グリーン・ツーリズム



◎都市と農村の交流図る

 先日、県庁で群馬グリーン・ツーリズム協議会の設立準備会合がありました。私も、発起人の一人として会に参加し、三十人ほどの県内の民宿や農場経営者、観光施設や行政の関係者の方々と、これからの都市と農村の交流について話し合いをしました。

 少しずつではありますが、グリーン・ツーリズムという言葉を聞くようになりました。カタカナ言葉が先行し、あえて分かりづらくしているようにも思いますが、グリーン・ツーリズムがこれからの地域振興の有効な方策であり、群馬の人や地域が元気になるような気がします。

 私も、東京から群馬県に越してきて、都会の人たちと田舎(というと失礼ですが)の人たちとの間には、“豊かさ”のとらえ方に少しギャップがあることを感じていますが、えてして、自分たちの住んでいる町や村には何もなく、不便で魅力がない、などと感じるものではないでしょうか? でも、都会の喧騒(けんそう)に疲れた都市生活者にとって、農村や田舎には安らぎや癒やしといったものを感じるものなのです。

 私の父は三重県の伊勢の生れで、東京生れの私にとって故郷というのは毎年夏休みになると、父の実家である祖父母の元へ行くことでした。もう三十年以上も前の夏休みの情景が今でも思い浮かべられます。その時の体験の何と楽しかったことか…。

 朝はクマゼミの声で目覚め、田んぼを渡る風の中で朝食をいただき、祖父に連れられて畑にトマトやキュウリの収穫に向う途中、大きなハチに遭遇して逃げたり、目の前に現れた毛虫に奇声を上げたりしたことがまるで昨日のことのようです。東京にはない自然の中で、それほどまでに生き生きとした体験が今でも忘れがたい思い出です。

 もともとは地方出身の人が多い東京ですが、世代も移り変わり、田舎のない人たちが増えています。わが家を田舎の親戚がわりのように訪ねてくれる都会の友人たちも、畑のオクラがピンと上を向きつつ収穫を待っているのを見るだけで、ずいぶんと感動してくれます。常識も見て触れて身につくもの、私たちがごく普通の習慣に思うことや、地域で当たり前になっていることでさえ、ほんの少し暮らし方の違う人には、とても新鮮で感動を生むのです。

 私の知人で長く闘病を続け、久方ぶりに病院の庭を散歩した時に、聞こえてくる鳥の声や足元に咲く小さな花、その近くに列をなすアリの行進を見たことで、まさに生きている自分を実感し、涙が出るほど感動したという話しを聞きました。人間は唯一特別な存在でなく、自然の一部、いやいや、人間も本来自然そのものであることを、私たちは足元から感じてみるべきです。

 地域の自然や文化・生活、食や伝統を大切にしながら、都市と農村の交流を図る。そして今までのような右肩上がりの経済一辺倒でなく、心通える田舎づくりを通して地域活性化・まちづくり・村おこしを考える。グリーン・ツーリズムを通して私たちの群馬県を、独自の地域性を大切に地域振興をさせていきたいと思います。

(上毛新聞 2003年6月1日掲載)