視点 オピニオン21
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トレーニング指導士 大谷 博子さん(桐生市宮元町)

【略歴】日本女子体育短大卒。3年間、中学校で体育教諭を務めた後、家庭に入り子育てしながら文化活動を始める。1977年児童文学の部門で県文学賞、81年には日本児童文芸賞新人賞を受賞。

母と子



◎子どもの心に沿って

 「お母さん、ヘルプ!」

 週末、市内に住む娘が、発熱で全身発疹(はっしん)の六歳の孫と、いたずら盛りの三歳の孫と、洗濯物の山を抱えて、わが家になだれ込んできました。

 「チビかいじゅうを頼む!」と、夫と私に声をかけながら、病気の長男を寝かしつけ、痒(かゆ)がる背中をさすったり、水を飲ませたり、その合間に洗濯機をまわし、二男のオシャベリに相づちうったり…。

 (気弱で涙もろかった娘が、ずい分たくましくなったものだなあ…)と感心しつつ、「されど母は強しだねえ」と私が言うと、「ダメダメ、ちっとも強くなんかないよ。何かあると、すぐ子どもに振り回されちゃうんだもん。この間だってさ…」と、孫たちの保育園でのエピソードや、家庭内でのハプニングを私たちに披露し、子育ての難しさを訴えました。

 いかにも納得といったことばかりなので、思わず笑ってしまってから、「子育てって大変だよね。夫婦で育てるっていっても、小さいうちは、特に母親が担う部分が多いから…。テキスト通りにはいかないよ。子どもたち、みんなそれぞれ違うもの持ってるもの…。でも、それが子育ての楽しいところだよ」と、自分のことは棚にあげ、偉そうに、私は、娘に、S君親子の話をしました。

 五歳のS君は、小さくて、とても恥ずかしがり屋。はりきってスポーツクラブに来たものの、どうしても仲間にまざれず、始まると同時にお母さんにしがみついてしまいました。

 いくら促してもダメ。その日は、とうとう見ているだけでした。

 そして翌週も、その次も、その次も…。

 私たちスタッフが、あの手この手を試みましたが、S君は、お母さんの隣にちょこんと座って、みんなが楽しそうに運動するのを、じっと見ているだけでした。「早く仲間に入れるといいですね」と言う私に、S君のお母さんは、笑顔で答えました。

 「おかしいんですよ。この子ったら、家へ帰ると、家族のみんなに、“今日は跳び箱やったんだよ。足をパーに開いて、エイッ!って跳び箱を押すんだ”なんて言って、私を馬にして、跳んでみせるんです。まるでやってきたかのように…。ここでは見ているだけなのに、この子の気持ちは、しっかりみんなにまざっているんですね。そのうちきっと…」

 そして、本当にその通り、S君は、一年生になったその時から、仲間と一緒にずっとスポーツを楽しんでいきました。

 日々、変わっていくのが子どもです。体も心も十人十色なら、子育ても十通り。

 「子育て渦中のお母さん、子どもの心に沿って、ゆっくり歩むがいいですよ。そして、どの子もみんな、健やかに、ゆっくり大きくなあれ」

 おばあちゃんからの願いです。

(上毛新聞 2003年6月13日掲載)