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にいはる自然学校ディレクター 鷲田 晋さん(新治村羽場)

【略歴】愛知県生まれ。立命館大学産業社会学部卒。民間教育研修会社に12年間勤めた後、1999年、上野村にIターンし、観光業に従事。3月に新治村に移住、4月から現職。

PA



◎協力の大切さを実感

 プロジェクトアドベンチャー(以下PAという)という教育プログラムがある。「冒険」をベースにした人間の成長のための教育プログラムである。「冒険」といっても岩登りや川下りをするのではなく、森の中に木やロープなどであらかじめつくられたコースで行われる「冒険」である。そのコースの中で、グループで与えられた課題を、アイデアを出し、協力しながら解決していく。その過程で、仲間を信頼することの大切さや、チームワークや協力することの重要性を、体で覚えるプログラムである。PAのプログラムとは、例えば、ターザンさながらロープを使って、一人も失敗せずに、全員が川を越えて島(小さな板)の上に乗り移る。高さ約三メートルの壁を協力して全員が乗り越える、などである。

 群馬県では、国立赤城青年の家にPAのコースがあり、時々指導に行っている。PAの参加者は学校の先生、企業人、学生とさまざまであるが、みな初めは半信半疑で参加し、やがて夢中になり、最後は感動して現場に戻っていく。何が参加者をこんなに引きつけるのだろうか?

 一つは、PAの場が「自分がとても居心地の良い場所」であることではないだろうか? PAが大切にしている価値観の一つに「フルバリューコントラクト」という概念がある。わかりやすく言うと「自分も含めた全員を尊重することを約束すること」である。PAでは自分が大切にされる。ここの場では相手を尊重する限り、何を言っても、何をしても受け入れてくれる。信頼関係に基づいた素直な自分を出せる空間だ。こんな「居心地の良い場所」はない。

 もう一つの魅力は、新しいことに挑戦すること=アドベンチャーの魅力である。挑戦し、そしてそれができたときの達成感ほど至高な経験はない。壁を越えることも、ロープを使って飛び移ることもほとんどの参加者にとって「アドベンチャー」であるが、メンバーの支援と協力でほとんどクリアできる。不安が笑顔にかわり、胸に込み上げてくるものがある。たまらない。

 ただ、PAはこれで終わらない。体験したことを振り返させる。その中で参加者は気づく。日常生活の「乗り越えたい壁」や「渡りたい川」に、そしてそれにあまり挑戦していなかった自分に。彼らは自問する。「ここでできたのだからきっとできるさ。今日はいくつもの不可能なことを可能にしてきたから」

 PAは、「自分と仲間の大切さ」「人間の可能性」「協力の大切さ」を体験し、実感する。それは不登校の生徒が増加の一途をたどり、いじめが横行し、ネットで知り合った若者の集団自殺が起こっている現代社会に対して、別の価値観を提示しているのではないだろうか。

(上毛新聞 2003年6月18日掲載)