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日本原子力産業会議常務理事 町 末男さん(高崎市中豊岡町)

【略歴】京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。元原研高崎研究所長。1991年から9年間、日本人として2人目の国際原子力機関(IAEA)事務次長。特許多数。紫綬褒章受章。

外から見た日本



◎生活の質を高めよう

 散歩していると、美しい榛名山と赤城山、遠くには浅間山を望むことができる。日本には古来美しい自然がある。しかし、それが住環境となるとどうか。周りにはコンクリートの電柱が何本も立ち、電線がはりめぐらされて美しい風景が台無しになっている。地震のある日本では電線の地下埋設はコストが高いというが、技術開発による工事の低コスト化も可能なのではなかろうか。ヨーロッパの街は、電柱もなく、広告の看板も少なく、家屋の色調も統一され、自然の中に調和して美しい。二十二年前、ウィーンから百キロ西のドナウ川岸に建つメルクの僧院を訪れ、その小さい窓から眺めた村の風景の美しさに感動した。

 日本の住宅はその質、耐久性において十分とはいえず、欧米に比べコストも高い。さらに土地単価が非常に高いため、敷地が狭い。窓を開ければ隣家の白壁である。過密で無計画な街づくりをやめて、欧米先進国の住宅政策を見習うべきだ。首都圏は仕方ないにしても、地方では自然を取り込むなどして住環境を良くしたい。住宅は生活の最も重要なよりどころである。世界第二位の経済大国、技術先進国にふさわしい生活環境を整備するために国や自治体の投資が必要である。仕事の環境も恵まれているとはいえない。私の働いていた国際機関や訪問した数多くの国では、ソフト分野の仕事をする人たちは集中して考えることができる静かな環境が与えられている。例えば企画担当者や研究者には小さくても個室があり、研究結果の分析や計画立案などのような深い考察を必要とする作業に集中できる。こういう環境が独創的な着想や発見をもたらすこともある。

 「人材は国の基盤」である。そのための教育の充実、改革が急務である。日本の学生の学力低下が心配されている。少子化だといって教師の数を減らすのではなく、一クラスの生徒数を少なくし、教師と生徒の心の通い合う、生徒の個性を伸ばす、より人間的な教育を行うことが重要だ。国際競争に生き残るために、持続可能な日本の社会をつくるために、レベルの高い多くの人材の育成が最も重要である。このために教育施設と教師・教授陣により多くの資金を投ずるべきである。そしてこれらの人材を効率的に活用するべきだ。年功序列を廃し、適材適所や抜擢(てき)も必要である。人材を有効に無駄なく活用すれば、長時間勤務はなくなり、生活にゆとりができ、それが明日への活力をもたらす。

 別の話だが、自転車は省エネで環境にやさしく、運動にもなる。ヨーロッパでは都会にも田舎にも自転車専用道がはりめぐらされている。ウィーンからドナウの上流まで自転車を電車にのせていき、二泊三日くらいで古城を訪れたりしながら、家族でのんびりと新緑の中を自転車でウィーンまで帰ってくるなどという楽しみもある。

 このように少し離れて日本を見ると、日本は国民の生活の質を高め、人生を豊かにするための環境整備にもっと資金を投ずべきであり、これが経済の活性化の要素にもなりうると考えられる。

(上毛新聞 2003年6月19日掲載)