視点 オピニオン21
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佐野短期大学社会福祉学科教授 日比野 清さん(館林市堀工町)

【略歴】東京生まれ。12歳の時に失明。明治学院大学、大阪市立大学大学院修了。社会福祉法人日本ライトハウス・視覚障害リハビリテーションセンター所長などを経て、現職。

自立(律)とは



◎指向性もつ3つの概念

 障害のある人、高齢者、そしてあなたにとって「自立」とはどのようなことを意味しているのでしょうか? この何げなく使ってしまう「自立」という言葉にもさまざまな考え方があり、物議をかもしだしています。その論議の的になっている「自立」の解釈は、大きく分けると三つになると思います。

 第一の自立は、一般的によく「自活」という言葉で表現されているように、自らが働いて得た賃金で生活を営んでいる状態です。すなわち「経済的自立」を意味していることが多くあります。

 第二の自立は「日常生活動作上の自立」です。介護上では食事・排泄(せつ)・入浴・移動などが自分でできるか否かということ、すなわち「身辺自立」しているかどうかが重要視されます。現在施行中の高齢者の介護保険制度上の自立は、まさにこの自立を意味しています。

 第三の自立は、「精神的自立」と表現されていますが、「自己決定できる」ことを意味しており、最近ではそれを「自律」とも表しています。すなわち、自分がこれからどうしていきたいか、どのような生活をしていきたいかなどを自らが決定することです。このことは一九六○―七○年代のアメリカで起きた自立生活(independent living)運動によってもたらされました。それは食事や衣服の着脱などの日常生活動作が自分ではできない重度障害のある人であっても、本人が自分の生活を自己管理することを基本とするものでした。たとえ重度障害のある人であっても、自分の人生は自らが決定していきたいということから発祥したものでした。

 この三つの自立の概念は非常に重要なことを示唆しています。すなわちこれらの概念は、ただ単に並列に並べられているのではなく、第三↓第二↓第一の自立へと指向性をもったものなのです。重度障害のある人であっても、まずは第三の自立(自律)を目指し、それが達成できたら第二の日常生活動作の自立を、そしてさらには第一の経済的な自立を目指して努力していくのです。また高齢者の場合も、第三の自立(自律)を目指し、それが達成できたら第二の日常生活動作の自立を目指すことになり、第一の自立は年金や各種手当などで満たすことになるでしょう。すべての人が第一あるいは第二の自立が達成できなければならないということではなく、おのおのの人が自分の思うように精いっぱいの力で、それぞれの自立を目指して努力するのが当然なのです。

 これらのことは、障害のある人や高齢者だけの問題ではなく、現在の若者や障害のない人たちにとっても、重要な目標であり、ともすれば忘れられがちな事柄ではないでしょうか!

(上毛新聞 2003年7月1日掲載)