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県自然環境調査研究会員 松澤 篤郎さん(館林市富士原町)

【略歴】館林市出身。県立館林中学校、日本大学文理学部卒。東京大学理学部植物学教室留学。小・中学校で理科教師、小学校で校長を務める。現在、館林市環境審議委員、板倉町文化財調査委員。

群馬の竹・笹



◎生活に役立つ森林資源

 日本では古来、竹は松と梅とともに寒さに強く「歳寒の三友」と称され、それらを取り合わせて松竹梅となし、お正月をはじめ、いろいろな祝い事に欠かせない縁起物になっている。昔の農村は竹薮(やぶ)に囲まれた静かな村里が多かった。その竹は農家にとって、作物の支柱をはじめ、住居や調度品の上で欠かせない重要な植物だった。

 竹の話を進めるにあたり、最初に竹と笹(ささ)の違いについて述べてみる。竹はタケノコから成竹になるときに、竹の皮(専門用語で稈鞘=かんしょう=という)が落ちるものをタケ類、竹の皮が落ちずに長くついているものをササ類と別けている。日本列島はササ類の種類と量が多く、日本はササの国である。県内にも多くのササ類が生えており、私の長年の調査の結果、ササ類だけで約六十八種類が見い出されて、群馬はまさにササの王国ともいえる地域なのである。

 県内になぜ種類が多いのか、簡単にそのわけを考察すると、冬期、積雪の多い地域の北西部に山岳地帯が連なり、その多量の積雪に適応した生活型の植物群、これを日本海側要素の植物と呼んでいる。一方、冬期雪の少ない、冬の乾燥した空っ風の吹く地帯の大平洋側要素の植生が県内を走り、それぞれの環境に適応したササ類が多くなっている。これは他の植物にとってもいえる。

 雪の多い谷川岳一ノ倉沢付近にはチマキザサが一部群生している。このササは葉の幅が約八センチ、長さ二十―三十五センチあり、両面に毛がないので、粽(ちまき)を包むのに使われる。水上町の奧利根湖周辺にはチシマザサ(ネマガリダケ)が群生している。雪の多い日本海側に多いササである。このタケノコがおいしいのは有名だ。この稈(茎のこと)は基部が強く、湾曲することからネマガリダケの別名がある。このタケノコ本体は地中にある。タケノコの先端が少し地面に出た時、土を掘ってタケノコを採るので、本場の東北地方ではヂダケと呼んでいる。チシマザサの基部が強く曲るのは、雪の重みだけではないようである。一方、雪の少ない山地帯には、ミヤコザサ、ニッコウザサなどが生えており、高さは一メートル内外。稈の基部から一―二本の枝が出て、通常一年後には稈は枯れ、毎年新しい稈と交替する。

 次に知名度の高いクマザサの話に触れてみたい。クマザサは京都府の山地に自生品があり、それが観賞用に日本全国に広く栽培され、各地に野生化したといわれる。従って、クマザサは神社、公園、森、人里近くの林などに野生化している。さて、クマザサの名の由来だが、熊(くま)の出そうな所に生える熊笹ではなく、冬になると葉の縁が白く枯れて隈(くま)取るので、隈笹といわれるようだ。その原因は空気中の湿度に関係し、空気の乾燥が葉の隈取りを起すと、竹研究の第一者、鈴木貞雄博士は話されている。

 鎮守の森、竹薮のある農村のたたずまいは、日本の原風景でもあった。竹、笹は人の生活に役立つ森林資源、風雪に耐え抜き、岩場にしっかり根をおろし、風水害を極力押える笹にも関心が深まれば幸いである。

(上毛新聞 2003年7月13日掲載)