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元群馬高専非常勤講師 細井 千代吉さん(伊勢崎市末広町)

【略歴】群大学芸学部(現・教育学部)卒。小学校、高校で理科教師を務め、病気療養中の子どもが学ぶ県立東毛養護学校前橋分校で指導し、定年退職。2002年3月まで群馬高専非常勤講師。

虫や動物の名前



◎小さい鳥を表す「スズメ」

 カ(蚊)は代表的な嫌われもののようで、大概の人は叩(たた)いて殺します。しかし、蚊といえども生きるため、子孫を残すためにはヒトの血を吸わねばなりません。血を吸うのは雌だけで、卵を発育させるには、ぜひとも必要な栄養だからなのです。血を吸うとき、ハマダラカ(羽斑蚊)はマラリア病原虫を、アカイエカ(赤家蚊)は日本脳炎やフィラリア(糸状虫)を媒介する恐れがあるから有害昆虫といえるでしょう。蚊という文字は虫+文で、「もんもん」という羽音をまねた擬声語からともいわれ、大槻文彦博士も「翅にて鳴く」と書いています。蚊(mosquito)は小さいものの例えにも用いられます。幼虫はボウフラと呼ばれ、孑孑と書かれます。

 幼虫がアリジゴク(蟻地獄)で知られるウスバカゲロウ(薄翅蜻蛉)は、蜻蛉(トンボ)の文字を使いますが、トンボの仲間ではありません。薄翅蜻蛉とは羽が薄くて清らかな、トンボに似た虫と解釈したらいいと思います。ウスバカゲロウを薄馬鹿下郎と誤解してはかわいそうですね。カゲロウ(蜉蝣)は、儚(はかな)いもの、短命の代名詞としても引用されます。

 葉の裏や照明器具などに産みつけられたクサカゲロウの卵は、花の雄蕊(しべ)のように見えますが、花が咲かないので、仏教でいう三千年に一度咲くという花になぞらえて優曇華(うどんげ)と呼ばれるようになりました。幼虫も成虫もアブラムシ(アリマキ)などの小虫を捕食し、一生に数千匹も食べるので益虫としての価値が高いのですが、雄虫は噛(か)むこともあります。名は抓(つま)むと悪臭を出すので臭蜻蛉と書きますが、成虫の翅がきれいなので草蜉蝣と書くこともあるようです。

 ナメクジは嫌われますが、カタツムリ(蝸牛)は童謡になるほど親しまれています。飼育して卵を産ませてみると一層かわいくなります。カタツムリという名は、大槻博士は「潟螺(かたつび)」から、大辞泉ではカタツブリの音便化でカタは「固い」の「かた」、または「笠」の音便で、「つぶり」は丸い巻き貝のこととしています。正式名のマイマイは「巻き巻き」、デンデンムシは「角よ出い出い」の意で「ででむし」から転じたといわれます。

 スズメ(雀)は長い年月、人間とかかわり合ってきて、人間の改良した穀物の味を覚えたからでしょうか、人家のある所必ずスズメがいるまでになりました。スズメのスズはササ(小・細)、メは鳥の古名ですから、スズメとは「小さい鳥」という意味になります。雀の字も、もとは上部が少ではなくて小+隹(尾の短い鳥)で、小さい鳥を表します。ちなみに、植物の名で小さいという意味にスズメがつくものが幾つもあります。

 ワシ(鷲)という名は、タカ(鷹)の仲間のうち大形で強力な種に対する呼び名なのです。獲物を発見すると、その上空を輪を描いて飛び回り、機をみて襲うことから「輪過ぎ」と呼ばれ、ワス↓ワシと変化したという説もありますが、ワは輪であるがシは志であるともいわれ、志とは為(な)すことで、ワシは輪を為すという意味ともいわれます。

(上毛新聞 2003年7月18日掲載)