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NPO法人さくらメイツ専務理事 赤石 光政さん(境町東)

【略歴】前橋商高卒。個人経営だった家業の葬儀店を会社組織に替え、1994年から代表取締役社長。2000年にさくらメイツ設立。

渓流釣り



◎自然の美しさ後世に

 いつのころからかは、はっきりと記憶にないのですが、暇ができるとイワナを求め、渓流釣りに出かけるようになりました。よく行く沢は矢木沢ダム上の利根本流・小穂口・幽ノ沢・奈良沢・コツナギ沢等で、その日あいている沢を選び入渓しています。最近現地で会うベテラン釣り師は、とみにイワナの数が減ったと、愚痴をこぼしていましたが、つたない経験の私でもそれは感じています。

 その理由の一つとして、一部の心ない人により元来生息していないコクチバスが大量に放流されて繁殖し、今では、どの沢の出合いでも、あるいは日のあたる浅瀬等に、大量のバスの姿を見ることができます。本当に嘆かわしいことです。

 生態系は崩れ、いずれは食物連鎖の頂点に立つのは、その繁殖力からいってもバスになってしまうかもしれません。漁協の懸命の捕獲作戦も湖が大きいだけに苦戦を強いられているのが現状で、今の世情の、自分さえ良ければ、自分さえ楽しければ良い、という考え方が、こんな自然の中まで侵入してきました。

 そんな状況ですが、沢を遡(そ)行すればそこには人の手の付いていない自然が広がっています。すべての沢に堰(えん)堤はなく、イワナ・ヤマメが本能のまま遡上でき、自然の営みのなすがままに渓相は変わります。五、六年前のことだったですか、コツナギ沢で山が抜け、土が見えたところに、一面ヤマウドが群生し、それはみごとでした。時期があえば一本の倒木に数百本のナラタケやナメコタケ等、雪景色から、紅葉まで本当に楽しませてもらっています。自然の営みの中にお邪魔をさせていただき、その法則にしたがい、決して無理をせず、そして今日の獲物でうまい酒を飲む―。こんな楽しいことのできる自然を次の世代に残すことは、今、生きている私たちの義務であり、責任であります。

 イワナを求め沢に入っているうちに、四季折々の渓流の美しさに魅了され、仕事の疲れをいやされ、ヘッポコ釣り師の私には「イワナ釣りは景色を釣る」という、釣果もさることながら、その美しさの中に身を置き、景色を堪能するという、言い訳まで用意されているのです。

 さくらメイツのスローガンは「人と人とのふれあいを大切に」ですが、子供たちには、いつでもふれあえる、ありのままの自然を残さねばならないと痛切に感じています。

(上毛新聞 2003年7月29日掲載)