視点 オピニオン21
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カラー・イメージコーディネーター 矢内 美恵子さん(前橋市西片貝町)

【略歴】日本色彩研究所、東京カラーコーディネートセンター、色彩学校で色彩学、色彩心理などを学ぶ。1993年、カラースタジオ・インナーブライト設立。日本色彩学会、公共の色彩を考える会会員。

子どもの心を映す色



◎言葉にならないことば

 犯罪の低年齢化、凶悪化が大きな社会問題して取り上げられています。続発する子どもによる凶悪犯罪を前にして「子どもが何を考えているのか分からない」という大人たちの悩みも深刻です。

 「すべての人間の行動は、人間の潜在意識の中にこそある」。これはかのフロイトの言葉です。潜在意識下に閉じ込められた感情は、やがて非行や病気といった歪(ゆが)んだかたちとなって表出されるといわれます。

 「友だちとけんかをして、ひどくやりこめられた八歳の男児は、その後で、画面いっぱいに広がる濃い紫色のテーブルと、その上に小さく、こぢんまりとのっているスプーンと洋菓子の絵を描いた。スプーンは黒、洋菓子をのせている皿は強い橙(だいだい)色である。テーブルは全部脚まで濃い紫で塗られていた。この紫は『制御された不幸な気分と関係があり』、さらに『沈滞したゆううつな気分や経験と結びつく』もの。彼はけんかに負けたくやしさを、画面いっぱいに広がる紫で表出したのである」。久保貞次郎氏の著書『色彩の心理・子どもの絵の心理的記録』の一節です。

 色の好みはその時々の心理状態によって変化し、色は人の心の動きを映し出します。特に子どもの場合、それが顕著です。色彩は本人の抑制をすり抜けて心の中枢にまで働きかけて、理性ではすでに「解決済み」と思い込んでいた意識の下で葛藤(かっとう)していた感情までも放出させます。そして、色彩を取り込みながら全体を根源的に癒やしていく手法「カラーセラピー」は、「分かってほしい。思いを伝えたい」と願っても、本人のようには多くは語彙(ごい)をもたない、表現手段の未熟な、そして大人の保護なしには生きていけないゆえに自己主張を貫きにくい、子どもの潜在意識下の心を汲(く)みとるための、有効な一つの手段でしょう。

 赤/はげしい感情表現や体を動かしたい欲求。黄/見守ってほしい。甘えたいなどの欲求、自己アピールの表現。緑/安定感とマイペース。青/勉強したり、好きなことに集中したいとき。紫/心身の疲れを癒やし、バランスをとってくれる。ピンク/やさしさ、幸福感にひたりたい。白黒/感情が出せない。環境の中に異変がおきたとき。虹/感情の交錯。

 色彩心理研究家であり、子どもの自由な創作活動の場「子どものアトリエ」を主宰する末永蒼生氏は、「色は言葉にならない子どもの心のことば」とし、子どもの絵には(1)絵が心理的な要素を具体的に語っている(2)絵を描くそのことが、子どものメンタルケアにとって効果をもつ(3)創作活動によって知的な能力をも引き出されてくる―と三つの大切な要素があると述べています。子どもの生活背景全体を把握した上でという条件付きではあっても、絵、とりわけ制約のない自由な条件下で描かれた子どもの絵、そこで使われている色は、「自分の気持ちを分かってほしい」という子どもの精いっぱいのメッセージとして大切にしたいものです。

(上毛新聞 2003年8月1日掲載)