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日本原子力産業会議常務理事 町 末男さん(高崎市中豊岡町)

【略歴】京都大大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。元原研高崎研究所長。1991年から9年間、日本人として2人目の国際原子力機関(IAEA)事務次長。特許多数。紫綬褒章受章。

放射線



◎人類の幸福に役立てる

 一九五三年、ときの米国大統領アイゼンハワーは国連総会で「アトムズ・フォア・ピース(平和のために原子力を)」という有名な演説を行い「人類の幸福と繁栄」のための原子力の平和利用を進めようと世界に呼びかけた。それから今年でちょうど五十年になる。この演説が基になって「国際原子力機関」が設立され、世界の原子力利用が始まった。

 いま、原子力エネルギーは世界の電力の16%、日本の電力の34%を供給している。とくに日本のように石油や天然ガスなど化石燃料のない国にとっては、重要な準国産エネルギーとなっている。

 今回は私たちの生活に役立っている放射線の多くの応用の中から二つの例を紹介する。

 その一つは手術しないで「がん」を治療する「放射線治療法」についてである。日本では約25%のがん患者に適用されているが、米国では約50%にも達している。手術によって体の重要な機能が失われるケースでは特に放射線法の活用が効果を発揮する。「がん」の部分に集中して放射線をあて副作用を低くするさまざまな方法が工夫されている。例えば小さな粒状、棒状に加工された放射線源を患部に挿入して局部的に照射する。また脳腫瘍(しゅよう)などの治療では多方向からガンマ線を照射し、患部に集中させるガンマナイフという方法がある。

 日本が世界の最先端にある新しい治療法「重イオンビーム照射法」が最近注目されている。これは炭素イオンなどを加速器で発生させてビーム状にして腫瘍部に照射する方法である。加速されたイオンの粒子は体の表面部を素通りして内部の患部を集中的に照射できるという特性がある。また、イオンビームはがん細胞を破壊する作用がガンマ線よりはるかに大きいという利点もある。この治療法が千葉県にある放射線医学総合研究所で九年前から始められ、これまで約千三百人のがんの患者が治療を受け、平均治癒率約80%という大変によい成績が得られている。とくに手術が難しい「がん」、例えば骨肉腫などの治療で特長がよく生かされている。群馬大学医学部にもこの新鋭機を設置し、北関東の治療拠点にする検討・調査が進みつつある。

 二つ目の例は、人道的な面から大いに期待されている放射線を利用した「地雷探知」の研究を紹介する。世界中に約一億個も埋められている「地雷」は日々数多くの人を殺傷している。地雷を除去するため、その探知に金属探知機やレーダー、「探知犬」などが使われている。いずれも精度・効率が悪く、改良された検知法の開発が必要である。政府はアフガニスタンの人道支援の一環として、この課題に昨年から取り組んでいる。その一つに中性子線法がある。小型加速器からの中性子を地面に向けて発射し地雷の中の火薬から反射されてくる特有の信号を分析して火薬を検知する方法である。欧米でも研究されており、レーダーなどと組み合わせて小型で正確かつ効率的な方法が開発されると期待されている。

(上毛新聞 2003年8月3日掲載)