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国立長岡技術科学大学副学長 西沢 良之さん(東京都新宿区百人町)

【略歴】富士見村生まれ。前橋高、東京教育大卒。1970年文部省入省。文化庁文化部長、東京学芸大事務局長などを経て、2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会に出向。今年4月から現職。

罪を憎んで…



◎少年の心に巣くうもの

 また、少年によるおぞましい事件が起きてしまいました。おぞましいというより、いたましいといったほうが良いかもしれません。

 この事件が、少年により起こされたものであることを知ったとき、本当にやりきれない思いで胸がいっぱいになりました。どうしてこんなことが起きてしまったのだろうか。本人だってそう思っているに違いありません。少年の心の中にすみ着いた何かが少しずつ大きくなり、そしてそれが少年を内側から突き動かしたとしか思われません。

 私の少年時代を振り返ってみても、利根川に遊びに行き、畑になっているキュウリやトマトを盗んで食べてしまったなどの記憶は一回や二回ではありません。もちろん多少の罪の意識は持ちつつも、集団心理や冒険心などの入り交じった気持ちに突き動かされていたのだと思います。畑を作っていた人にどなられたり、追いかけられたこともありました。もしそんな時、抵抗しけがでも負わせていたらと、今思うとぞっとします。

 子供の心の中には、こんないたずらの延長ではあるけれど、一歩踏み間違えれば「重大な犯罪」になってしまうようなことをさせる何かが、すんでいるのではないでしょうか。その一歩を踏みとどまらせるかどうかが運命を分けているかもしれません。

 事件のすぐ後で、「市中引き回し云々(うんぬん)」など物議をかもす発言もありましたが、被害者の両親の心中を思うと本当に許すことのできないことだと思います。この世に生を授けられ、いとおしんで育ててきた、まだいたいけないわが子が、何の理由もなしにその未来を断ち切られてしまう。もし自分の身にそんなことが起こったら、地獄の果てまで追いかけて行って敵を討ってやりたいと思うに違いありません。

 立場を変えて、もし、罪を犯してしまった少年の親だったらどうでしょうか。同じようにいとおしんで育ててきたわが子が、何でそんなことをしてしまったんだろう。ああしてやっていたらこんなことは起こらなかったかもしれない。こうしていたら防げたかもしれない。身もだえするような毎日だと思います。

 少子化が進む中で起こっている、このような事件を見ると、少年の凶悪化が進んでいるとか、少年犯罪が増加しているとか思い込みがちですが統計的に見ればそういうことはいえないようです。この事件も、今まで見たことがないという意味では、特異ではあるけれど、凶悪というのとはちょっと違うと思います。まだ少年だから重罪にはならないという気持ちで犯したということでもないと思います。

 結果の重大性だけに目を向ければ、償っても償いきれないということになりますけれど、少年に対する罰則や取り扱いを厳しくすることで解決する問題とは思われません。大人の世界を映している少年の心の奥底に巣くっているものの正体をつかみ、それを糺(ただ)す術(すべ)を見つけることが必要であると思えてなりません。

(上毛新聞 2003年8月6日掲載)