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佐野短期大学社会福祉学科教授 日比野 清さん(館林市堀工町)

【略歴】東京生まれ。12歳の時に失明。明治学院大学、大阪市立大学大学院修了。社会福祉法人日本ライトハウス・視覚障害リハビリテーションセンター所長などを経て、現職。

利用者本位



◎対等な関係確立が課題

 最近、高齢者や障害のある人たちへのサービス提供あるいは利用関係において、「措置から契約へ」とか「利用者本位」という言葉がよく聞かれるようになりました。一体それらは、どのようなことを意味しているのでしょうか?

 二〇〇〇年四月から高齢者に対する介護保険が、また今年四月からは障害児者に対する支援費制度がスタートしました。これらの制度に共通する考え方は、形式的には「措置(「行政処分」ともいえるもので、行政が関係法律に基づいて執行する具体的な行為のこと)」から「契約」へという言葉で表現されていますが、それは社会福祉制度を「利用者本位」のサービスにしていくことを意味しています。

 戦後、各種の福祉制度が成立したと言っても過言ではないわが国ですが、社会福祉サービスを利用した時には、いまだに「やってあげる」とか「やってもらう」などというような、サービスを提供する側と受ける側に一種の上下関係とも言える従属関係が生じてしまいます。

 この提供者と利用者が縦の関係だったものを、横の関係すなわちパートナーシップの関係に改め、提供者は利用者にとって共に生きるパートナーとして位置づける考え方なのです。加齢や障害によってやむをえずサービスを受ける状態になったにもかかわらず、従属的に支配する・される関係では対等な関係とは言えません。

 現在進行中の社会福祉基礎構造改革において、この「サービス提供者と利用者との間の対等な関係」の確立が大きな課題になっています。この両者間の対等な関係を築いていくためには、状況的には利用者にとって各種複数のサービスの中から自分が利用したいサービスを選択できるような環境が用意されていることや、サービス開始の手続き上では「契約」という行為がなされなければなりません。たった一つしかないサービスだったら、選択することなく契約せざるをえなくなり、結局はそのサービスをやむをえず利用する状況になってしまうのです。

 「サービスを利用するのは当然の権利なのだから利用しないと損をする。やってもらって当たり前」などと言っているのではありません。もちろん、「人間としてできる限りの努力を惜しんではならないし、自立・自助に向かって努力していくのも当たり前」ですが、その選択肢を整備するのは国や地方公共団体なのです。

 利用者がどのような状況に置かれようとも、自ら選び決定したサービスや事柄であれば、決して後悔することはありません。ただし、この自己決定をしにくい人もいます。例えば、痴呆(ほう)高齢者や重度知的障害のある人たちの権利を擁護し、その人たちに代わって「代弁」していく仕組みも必要となり、制度としても整備されてきました。私たちは今、すべての人が「安心して生きることのできる社会づくり」のシステム形成に目を向け、主体的にかかわっていかなければならないのです。

(上毛新聞 2003年8月22日掲載)