視点 オピニオン21
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群馬陸上競技協会副会長 平方 亨さん(渋川市南町)

【略歴】渋川高、早大教育学部卒。現役時代は400メートル障害を中心に国体などで活躍。長野原高、桐生高教員などを歴任。日本陸上競技連盟国際委員長。四月から同連盟に出向。

高橋尚子



◎アテネでの連覇期待

 来年行われるアテネオリンピックの女子マラソンで、特に世界記録保持者のポーラ・ラドクリフ(イギリス)と高橋尚子について、全く個人的な考えであることを前提に書いてみたいと思います。

 高橋尚子については、みなさんご存じのようにシドニーオリンピック女子マラソン金メダル獲得で国民栄誉賞、女子マラソンで人類初の2時間20分の壁を破ったスーパーランナーです。

 一方、ポーラ・ラドクリフは現在の女子マラソンの世界記録保持者で、高橋と同じようにイギリスの国民的英雄です。その人気は、日本での高橋より上かもしれません。自己最高記録は、今年四月に開催されたロンドンマラソンでの2時間15分25秒です。高橋尚子の自己最高記録は二年前のベルリンマラソンで出した2時間19分46秒。その差4分21秒は、長距離走に興味を持っている人なら誰でも分かるとおり、致命的な差です。距離にして千メートル以上あります。

 もうちょっとこの二人の記録について、詳しく分析しましょう。世界的に記録の出やすい大会は、ベルリンとシカゴといわれています。逆に出にくいのはロンドンなのです。ロンドンのコースは後半がタフで難しいのです。そこで出した驚異的15分台という記録を、どう判断するかです。四十キロ過ぎからゴールまでを考えても、この時のロンドンマラソンでのラドクリフの記録は、男子マラソン世界歴代四位のシカゴでの高岡寿成の2時間6分16秒と比較しても、ラップタイムであまり違いがないのです。

 ということは、ラドクリフと高橋の勝負は4分のタイム差やラストの男子マラソントップクラスに相当することを考えると、見えてきてしまいます。残されているのは、アテネが石畳のような硬い道路であるとか、スモッグがあるとかの気象条件が悪いので、根性があり、勝負強い高橋尚子にも勝つチャンスがあるのではないかということです。しかし、考えてみてください。ラドクリフは国民的英雄であり、名誉も富も、そして世界記録も持っているのです。ないのはオリンピックの金メダルだけなのです。そのことを考えると、勝負に対しての根性がないとは考えられません。

 ただし、力通りいかないのがオリンピックであり、魔物が住んでいて悪戯が多々起きるのもオリンピックなのです。そんな強い相手だからこそ、高橋尚子のオリンピック連覇を期待したくなるのが日本人ではないでしょうか。

 最後に、ラドクリフはアテネオリンピックの出場権をイギリス陸連よりもらっていますが、高橋尚子がアテネオリンピックに出場するには、選考競技会での日本人一位が条件なので、今の計画ですと、十一月に開催される東京女子マラソンで優勝することが必要条件なのです。

(上毛新聞 2003年8月25日掲載)