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佐野短期大学社会福祉学科教授 日比野 清さん(館林市堀工町)

【略歴】東京生まれ。12歳の時に失明。明治学院大学、大阪市立大学大学院修了。社会福祉法人日本ライトハウス・視覚障害リハビリテーションセンター所長などを経て、現職。

共に生きる社会



◎平等観が思いやり育む

 高齢者や障害のある人の福祉をはじめ、あらゆる社会福祉の目標となっているノーマライゼーションの考え方は、日本だけでなく世界各国の社会福祉の基本理念、または原理として定着しつつあります。それは、子ども、高齢者、障害のある人・ない人、すべての個人が一人の人間として尊ばれ、分け隔てなく共に生きる(共存していく)社会が当たり前(ノーマル)であるという考え方です。私たちは今、それを実現化していくためにどうしたらよいのでしょうか。

 昨今、高齢者や障害のある人に対する理解の促進を目的に、小・中・高等学校の児童・生徒、さらには各地域で住民を対象に高齢・障害体験や介助方法等の講習会が行われています。また、個人やグループでのボランティア活動や、企業の社会貢献活動いわゆるフィランスロピーも活発に行われるようになってきました。確かに実体験をふまえることもあって、街中で高齢者や障害のある人に援助の手をさしのべる人たちも多くなってきています。

 しかし、ノーマライゼーション本来の理念である障害のある人もない人も、同じ地域社会に生活している人間としての平等観を本当に持ちえているのでしょうか。このノーマライゼーションの理念や思想を単に理論上だけでなく、感覚的に体で理解し、受け止めていくことが最も大切なのです。現段階では、いまだ理念や観念だけが先行し、身体的・感覚的に平等観を持ちえていないのではないでしょうか。

 幼少時から共に育ち・遊び・生活する中で、豊富な接触経験を持ちながら育(はぐく)まれる平等観こそが、人間としての「相手に対する思いやり」の感性を芽生えさせていくのです。身体的かつ感覚的に理解し合えない単なる理論上での理解は、結局「絵に描いた餅(もち)」なのです。

 身体的・感覚的な平等観を持ちえた状態を「体感的理解」と私は表現していますが、主として対人サービスを中核とする社会福祉に関係する専門職にある人にとって、最も必要とされる人間性はこの「体感的理解の共有」ではないでしょうか。

 ノーマライゼーションを実現化していくために、具体的には「総合的な環境づくり」も不可欠です。国や地方公共団体が、ノーマライゼーション実現のために法律や条例を制定し、生活環境の改善やバリアフリーの街づくり事業が推進されていくことの意義は大きいのですが、さらに住宅や道路、啓発や教育、各種の情報等を含めた地域における総合的な環境づくりが必要です。そのために、国や地方公共団体、地域住民や当事者・専門家が英知を出し合い、企画立案・実行・点検を繰り返し行っていくことが必須です。

 さらに、この種の事業では一部の人や場所、あるいは一時的に実行していくのでは意味がありません。すなわち、点から線へ、線から面への広がりと拡充が重要であるといえるでしょう。

(上毛新聞 2003年9月11日掲載)