視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
主婦 岡本 優子さん(箕郷町柏木沢)

【略歴】渋川女子高卒。一昨年、地元の人たちによる演劇「蚕影様物語」で国民文化祭の自主企画事業に参加。昨春は「貰い祝儀」を地元の人たちの手で再現し、映像に残すことに参加した。

屋根裏部屋



◎子供のころの秘密基地

 所々朽ちていて、ちょっと危ない木の一丈梯子(はしご)を上っていくと、そこは自分だけの世界。おてんばで、おませな九歳の子供の秘密基地なのです。

 昭和三十一年、テレビのない時代のことです。今思うと、未知との遭遇とばかりに、この場所に何度も上ってきました。それは、わらぶき小屋の三角の屋根裏部屋のことです。梯子の幅より少し大きい入口は西向きで、いつも開いていました。ポカポカとお日さまがあたって、空や雲を見たり、近くに見える庭木のてっぺんを見ているのが大好きでした。雨、風、雪、雷、台風、からっ風と何でも入ってくる入口はいつも混乱状態で、子供心にもしょっぺなくなった筵(むしろ)の下の床下がいつか朽ちて落ちることを心配していました。

 奥に入っていくと、いろんなものが所狭しと置いてあり、子供には使い道の分からない生活用品がぶら下がっていました。大人にとってはすでに使用しない物、でも捨てられない物がいっぱいありました。重い木箱のふたを開けると着物や衣類が入っていて、それを出したり入れたり、しまうときはちゃんとたたんでしまうのですが、そこが子供のこと、ふたが閉まりません。生活用品は何か面白い遊び道具にならないかといじくり回すのです。そして、元にあった場所に戻さないから、なおさら混乱する。

 本や雑誌は読むのではなく、絵や写真などを見て、好きなところをはさみで切り抜いてしまうのです。そんな時、卑猥(ひわい)な絵(子供から見て)を見つけたときは大発見とばかりに、妹などに見つからないように自分だけの秘密の場所に隠すのです。今思うと、屋根裏部屋をどうしょうもなく散らかしたのは自分だったのだと反省しました。

 ある日、遊び疲れて日だまりで眠ってしまったときのこと、ふと気が付いて天井を見ると、見慣れたはずの梁(はり)の上に蛇が、それも大きな青大将がすぐ近くにいたのです。大きな声で「ギャアー」とか言って、慌てておばあちゃんのところにでも飛んでいったと思うでしょう。農家の子供なんです。どうしたかというと、怖がることもなく、近くにあった布切れをすっぽりと頭からかぶって、じっと長い間動かないでいたのです。気が付いてみると、蛇はもういませんでした。曾(ひい)おばあちゃんや、おばあちゃんに「蛇はなあ、家の守り神様なんだぞ」とよく聞かされていたので、むやみに恐れることはなかったのです。農家の物置は米俵が置いてあり、それを食べるネズミがいて、そのネズミを食べる蛇もいたのです。青大将は太くて、長さも二メートルくらいありました。

 ある日、また大発見をしたのです。この秘密基地の全容なるものを知りたくて、ほこりだらけの筵の上をはうようにして奥へと進みました。突然、目の前の筵が下の方へずり落ちて垂れ下がっているのです。周りを見ると、お化けのような大きな穴が筵を引っ張り込んでいるように思えました。下を恐る恐るのぞくと、中は真っ暗で吸い込まれそうでした。「ウワーッ」と言ったきり、抱えきれない現実に体中が硬直してしまったのです。

 この秘密基地のことは、大人になるまで大切に封じ込めていたのですが、その後、その建物も壊され、母親と思い出話をしたとき、その謎が解けました。屋根裏部屋に上って遊んでいることは、おばあちゃんから聞いて全部知っていたとのこと、大きな穴のことは「おまえがいつ落っこちるんじゃないかと心配していたんだ」と言うのです。その穴は内階段を外した時、面倒なので、そのままほおってあったとのことでした。子供のころの不思議がやっと解けてうれしいやら、小さいときの自分をいとおしく思うやら、両親や家族の深い愛情に育てられた幸せを感謝せずにはいられませんでした。

(上毛新聞 2003年9月22日掲載)