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大阪産業大教授 高橋 泰隆さん(埼玉県行田市須加)

【略歴】早稲田大大学院博士課程修了。関東学園大講師、同助教授を経て、2001年4月から大阪産業大教授。著書に「中島飛行機の研究」「日本自動車企業のグローバル経営」などがある。

ゼネラリスト養成



◎人間の向上心に訴える

 日本人体操選手がアメリカで開催された国際大会で大活躍し、金と銀のメダルを獲得した。その時のコーチのコメントは興味深かった。種目別競技では、本来ならスペシャリストで臨むところだが、日本の体操界はその方針ではなくゼネラリストを旨とする、という趣旨であったと思う。ゼネラリストとは「何でも屋」のことであり、事実、その体操選手は鞍馬(あんば)と鉄棒の二種目でメダルを取ったのだ。なぜ、このコメントが興味深かったかというと、スポーツ界でも日本は「何でも屋」を育成の方針としているからだ。それが実を結んだのだ。日本の企業は同じ人物を長く同じポストに置かない。数年ごとに配置転換を行う。サラリーマンはその度に家族と一緒に、あるいは単身で各地に赴任する。仕事場は近年では国内に限らないから、場合によっては世界各地に派遣される。

 一つの工場内、また会社内で社員はあの仕事この仕事、このポストと動き、さまざまな仕事を経験する。それが昇進と昇給につながる。この会社の方針に従わず、配置転換を拒否すればペナルティーもありうる。従業員の配置転換は会社の重要な施策である。筆者が何かの用事で会社を訪問し、二年後に再訪すると、もう当事者はそこにいない。こういう例は何度となく経験した。

 なぜ、会社はこうしたことをするのだろうか。習慣で何となくやっているのだろうか。長い間、同じ仕事や同じ職場に就かせることは、そこの空気がよどみ、仕事に張りがなくなるということもある。従って人を動かすのである。これは人事異動の消極的効用である。人事異動の積極的効用はスペシャリストかゼネラリストかにこだわる事柄である。日本企業はゼネラリストを養成する。体操界とくしくも一致する。会社や工場内で従業員はある仕事に専門化するのではなく、その仕事を十分にこなしながら次のステップに進み、こうしていくつもの仕事を専門的にこなせるようになる。これはその働き手にとってもチャレンジ精神を喚起され、やる気を鼓舞されることになる。なぜなら、人は常に前進したい、同じところにとどまりたくないからだ。ゼネラリスト養成は人間の向上心に訴えるもので、「人本主義経営」ともいわれるゆえんである。日本の職場で従業員に一番求められることは何であろうか。周囲よりぬきんでた能力であろうか。否であり、むしろ協調性であって、チームワークの能力である。協調性やチームワークは仲間同士で助け合い、先輩が後輩の面倒を見ることで可能となる。それは野球のチームを考えれば明白だ。ホームランバッターを九人そろえても試合には勝てない。

 ゼネラリスト養成とチームワークは不可分の関係にある。われわれは日本の体操チームと同様に、ゼネラリストに価値観を有する。だとすれば、会社でいつ首になるかという雇用不安はできるだけ排除しなければならない。チームワークは長期雇用の下で機能するシステムなのだ。従って、安易なリストラは避けたいといいたい。

(上毛新聞 2003年9月24日掲載)