視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前群馬町立図書館長 大澤 晃さん(群馬町中里)

【略歴】高商から国学院大学。桐高、前工、前女とめぐり、前南で定年。群馬町立図書館の初代館長として、七星霜、その運営にたずさわる。現在は町の文学講座(古典と現代文)の講師。

本との出合い



◎自分で選ぶのが一番

 教え子からの夏便りの中に「本は読みたいが、どんな本を読めばいいのか…」といった、問い合わせに近いのが交じっていた。そのことに触れながら、返事を書くことにした。

 本などというものは待っていても、自分に都合のいい時に、向こうから訪ねてくるはずもないのだから、こちらから出掛けてゆき、自分の目で選ぶのが一番で、若い人は宅配便を期待してはいけない。

 一般的に読者は、書名、著作者、出版社の順に本を選んでゆくものなので、面白そうな書名の本があれば、書店であれ、図書館であれ、初めの数ページだけはゆっくり読んでみるのが賢明で、その努力を惜しんではならない。

 内容を理解するために、まえがきや目次、さらにあとがきなどを先に読むのも一つの方法である。

 書名の面白さや、帯の宣伝文に釣られて買った本でも、嫌になったら、努力して読み続けない方がいい。代金で損をしたような気になり、またその本に時間とエネルギーを注ぐのは損失を拡大して二次災害を招くようなものである。

 結果として無駄と思われる試行錯誤は経験として大切なことであり、無駄な経験は的中率を高め、良い本との巡り合いも増えることにもなる。

 推薦図書やベストセラー、また書店の平積み本(入り口に近く、棚にではなく、広告とともに平らに積んである本)に目を通すことも必要かもしれないが、奥の方に、読者の手に渡るか、出版社への返送を待つかの運命にさらされている本の中に、素晴らしい本がひっそりと収まっていることも事実である。図書館でも奥の棚まで進むことが大切である。

 出版される本について全般的な情報を手に入れるのは難しいが、次善の方法もある。

 新聞では各社とも日曜日に読書のページを載せている(上毛新聞では月、水となっている)。その他、「週刊読書人」に代表される読書新聞も図書館には用意されている。いずれも内容を知るにはいいが、褒めすぎている友情出演もあるので、注意が必要。

 またテレビでは日曜日にBSで「週刊ブックレビュー」をやっている。数人のゲストを交えて、新刊書を立体的に分析しているので面白いと思う。

 本を読んでいて、感動や共感を覚えたら、同一作者の他の本を読むことを勧めたい。深く読むためには一著作者の作品を広く読む必要に迫られるものである。

 それに借りた本や図書館の本で、感銘を受けた本などは必ず買って、身近に置いておくことが大切である。それらの本はいつまでも記憶をよみがえらせてくれるし、心を慰め、励ましてくれると思う。

 人生の大半が巡り合いによるものならば、本との巡り合いも、その例外ではないと思う。

 どのような本との出合いがあっても、単なる存在を超えて、生きる意味を模索し、対話を続けていく姿勢を崩さない限りは、何かを学べるはずである。

 とにかく、散策のコースに図書館と書店を加えることを勧める。狭いけれど左右の書架や棚には、未知とロマンの世界があり、生涯にわたっての心の友が待っている。

(上毛新聞 2003年9月27日掲載)